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南青山「NéMo」実食記──日本の海を映す一つ星フレンチ

Florence Consul
文 Florence Consul ·
Restaurants 東京 ★ Michelin

南青山のNéMo(ネモ)は、派手な演出よりも、魚の扱いと居心地のよさが記憶に残る一軒だ。根本 憲一シェフがフランス料理の技法で引き出すのは、日本の海と季節の味。料理、ワイン、サービスの細部まで無理がなく、親密な夕食の場が整えられている。

南青山でいただく、肩肘張らないディナー

2021年6月に開業したNéMoは、ミシュラン一つ星を掲げるフランス料理店。円や曲線を意識し、鋭い角を抑えたダイニングには木がふんだんに使われている。フォーマルな設えながら堅苦しさはなく、若いチームの自然な応対もあって、居心地のよいサロンのようだ。生産者への目配りは料理の説明からも伝わり、ひと皿ごとに日本の季節が感じられる。

@NéMo
@NéMo
@NéMo
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釣りと下田の海を原点に──根本 憲一シェフ

1984年に東京で生まれた根本 憲一シェフは、釣り好きの祖父の影響で、幼い頃から自然や魚に親しんできた。自然の中で家族と囲んだ食卓、揚がったばかりの魚、季節の恵みへの感謝。そうした記憶が、素材のおいしさだけでなく、食べ手の心に残る料理を志す原点になったという。

@NéMo
@NéMo

NéMoの開業前には、Les créations de NARISAWA(現NARISAWA)、エメ・ヴィベール、ルカンケ、パリのLe Sergent Recruteurで経験を積み、帰国後はレストラン カンテサンスで研鑽を重ねた。そこで培ったフランス料理の技術と、素材を見極める視点は、とりわけ魚の火入れによく表れている。揚げる、スープに仕立てる、バターで焼く。調理法を変えながら、それぞれの魚を最も素直に味わえる状態へ導いている。

@NéMo
@NéMo

今も釣りを続ける根本シェフは、魚介への理解が深い。下田をはじめ、信頼を築いてきた漁師から、その日に揚がった一本釣りの魚や鮮度のよい貝を直接仕入れるため、コースは季節と入荷によって変わる。支配人兼シェフソムリエの寺島 唯斗氏が管理するセラーには、約800銘柄がそろう。シャンパーニュやブルゴーニュの白、ジュラ、自然派のキュヴェ、海に近い産地のワインなど、フランスを中心に世界各地から選んだボトルが、魚介のミネラル感や旨味に寄り添う。

ディナーコースをひと皿ずつ

最初の皿は、岐阜県産の鮎。頭まで丸ごと食べられるよう、天ぷらを思わせる薄い衣で揚げ、香ばしさとほろ苦さを引き出している。鮮やかな緑のソースには、キウイとキュウリの清涼感、貝のだしの塩気を重ね、肝の濃い余韻を残す。薄切りの野菜も歯触りがよく、鮎の苦味、果実の酸味、海の塩気がひと口の中でくっきりと立ち上がった。

続くのは、新潟県産トウモロコシの甘味を、温度と食感を変えて見せる一品。小ぶりのカップに注いだなめらかな黄色いスープに、舌触りのきめ細かなトウモロコシのアイスクリームを浮かべ、ポップコーンを添えている。温かなコクと冷たい甘味の間に軽い歯触りが入り、トウモロコシそのものの風味がまっすぐ伝わってきた。

鱧は皮目にだけ火を当て、真珠色の身をしっとりと仕上げている。下に敷いた野菜に、枝豆の歯触りとじゅんさいのみずみずしさを添え、細かく削ったマカダミアナッツで香ばしさとコクを補う。自家製パンは、オーブンで香ばしく焼いた皮と、ふっくらした内側の対比が心地よい。皿に残ったソースまできれいに味わえた。

穴子は、薄いそば粉のガレットで自分の手で巻いて食べる。艶よく焼いた穴子に、ソテーしたフォアグラの脂と、コンフィを思わせるナスの甘味を合わせた仕立てだ。大葉と和の香草の青い香り、ほのかな辛味に、そばの実の粒感も効いている。旨味は濃いが、食後感は意外なほど軽かった。

土ものの器で供された甘鯛は、海老の琥珀色のだしを含ませた米に、揚げた魚を重ねた一皿。黄金色の皮は薄く香ばしく、身はほろりとほどける。米には海老の穏やかな塩気と海の旨味が染み込み、どこか日本風のパエリアを思わせた。匙を運ぶたび、だしの深さと魚の軽い食感が交互に現れる。

静岡県産のカンパチは、中心を淡い桃色に残し、表面だけをさっと焼いた厚切りで登場した。フレッシュトマトとセミドライトマトのソースにイタリアのハーブを散らし、酸味と凝縮した甘味で魚の脂を受け止めている。余韻には貝の潮の風味。魚の持ち味を損なわない火入れと、地中海を思わせる明るい味が無理なく重なっていた。

魚介から肉へ移る一皿は、常陸牛のフィレ。均一なロゼ色に火入れされた肉は、すっとナイフが入る柔らかさだった。深い旨味のジュに、飴色になるまで煮詰めた玉ねぎのソースを合わせている。付け合わせは、歯触りを残して焼いたベビーコーンと、ミルクのコクにほのかな燻香を帯びた黄金色のグラタン。要素を絞った盛り付けが、牛肉そのものの質を際立たせていた。

口直しは、霜をまとった小さな器で供される静岡県産メロン。淡い緑色の泡に木の芽を散らし、豊かな果汁とミルキーな甘味に、山椒のかすかな刺激を利かせている。日本のメロンソーダを思わせる親しみのある発想ながら、口当たりは軽い。最後には柑橘を思わせる清々しさが残った。

次のデザートは、熟したマンゴーにパッションフルーツの酸味、ココナッツミルクの柔らかな甘味、ソルベの冷たさを重ねたもの。仕上げには、テーブルで熱した焼きごてをクレーム・アングレーズに当てる。表面は艶のある琥珀色に変わり、薄くぱりっとした層が生まれた。なめらかなクリームとの食感の差に加え、目の前で完成する一連の所作も記憶に残る。

締めは、開業時から供されているLe Canelé。3種類のミントを使ったアンフュージョンがカットガラスのティーポットで添えられ、淡い色の液体に生葉の青い香りがゆっくり移っていく。小ぶりのカヌレは、外側を濃く艶やかにキャラメリゼし、中はしっとりとなめらか。使う酒に応じて風味を変えており、今回はキューバ産ラムの丸みのある香りが、ミントの清涼感と鮮やかな対比を見せた。

NéMoを訪れて

食後に残ったのは、根本シェフが親しんできた海の記憶と、名店の厨房で身につけた技術だった。鮮度のよい素材を見極め、過不足なく火を入れる。サービスも控えめだが、必要な場面ではきちんと手が届く。南青山の落ち着いた空間には、華美な演出に頼らず、素材への理解と手仕事で満足させる強さがあった。東京で育ったシェフが、日本の魚をフランス料理に落とし込む。その仕事を近い距離で味わえる一軒である。