エステール by アラン・デュカス|皇居の緑と日本の旬を映すフランス料理
東京・丸の内の「エステール by アラン・デュカス」は、フランス料理の技法で日本各地の旬を生かすミシュラン一つ星レストラン。デュカス・パリとのパートナーシップのもと、小島 景シェフが素材の持ち味を見極め、一皿ずつ丁寧に仕立てます。料理だけでなく、器や光まで一続きに考えられた店のつくりも見どころです。
皇居の緑を望むパレスホテル東京
皇居外苑に面するパレスホテル東京は、丸の内の中心にありながら、館内に入ると街の喧騒が遠のきます。自然な色調の客室は、その多くに東京では珍しいプライベートバルコニーを備えています。レストランやバーに加え、日本初上陸のエビアン スパ 東京も館内にあります。今回私たちがディナーに訪れた「エステール by アラン・デュカス」は6階。窓の向こうに広がる緑を眺めながら、ゆっくりと食事が進みます。
自然素材と光を生かしたダイニング
店舗デザインを手がけたのは、緒方 慎一郎氏率いるSIMPLICITYです。生命が生まれ、やがて土へ還る循環を着想に、ブラウンを基調とした室内へ、和紙、布、木、土などの自然素材を重ねています。伝統的な素材を用いても古めかしさはなく、視線や会話を邪魔しない抑制の利いた設えです。
なかでも和紙は、空間の印象を左右する大切な素材です。植物由来の和紙を選んだ背景には、環境への配慮と、料理の素材を育む自然への敬意があります。和紙の壁面には、季節の植物をかたどったモリソン小林の鉄の作品が掛かり、光を受けて静かな陰影を落としていました。
幅を絞ったアプローチを抜けると、視界が一転し、明るいダイニングが現れます。大きな窓の先に皇居の緑が広がり、時間や季節とともに移ろう景色が食事の背景になります。照明は、金箔を施した卵形の構造体の内側に収められ、眺望を遮ることなく、テーブルだけをやわらかく照らします。
家具にも細かな工夫が見られます。ジャン・ヌーヴェルによる「Saint James」の椅子は、エステールのために用意された土色のレザー張り。曲線を描く木の造作は、空間を緩やかに分けつつ、視線の抜けを残しています。
テーブルにも日本の手仕事が並びます。和紙の器、有田焼、折り畳める錫のオブジェ、手彫りのバターナイフ。いずれも実用にとどまらず、手に取るたびに素材の感触や作り手の仕事が伝わってきます。
日本の旬を主役に据えたフランス料理
2019年11月に開業した「エステール by アラン・デュカス」は、『ミシュランガイド東京2025』で一つ星を獲得。フランス料理の技法を土台に、鎌倉の野菜や果物をはじめ、日本各地から届く旬の食材を料理に仕立てます。「エステール」とは、オクシタニー地方の言葉で「母なる大地」の意。穀物、野菜、果物も添え物にせず、一皿の中心に据える姿勢に、その名の由来がよく表れています。
小島 景シェフがフランスで培ったもの
エステールのシェフ、小島 景氏は1964年に東京で生まれ、鎌倉で育ちました。1988年に渡仏し、ミシェル・ゲラール、アラン・シャペル、ピエール・ガニエールらのもとで研鑽。モナコの「ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス」では、3年間にわたり副料理長を務めました。
帰国後は「ベージュ アラン・デュカス 東京」を率い、8年連続でミシュラン二つ星を獲得。2023年にエステールのシェフへ就任しました。現在も鎌倉に暮らし、毎朝市場へ足を運んで食材を選びます。フランスの技法は土台に置きながら、野菜や魚の持ち味を濁らせず、すっきりと引き出すのが小島シェフの料理です。
私たちが選んだディナーコース
席に着き、まずはノンアルコールのスパークリングワインを飲みながらメニューを眺めました。私たちが選んだのは、スターター、メイン2品、デザート、食後の飲み物を含む「MENU CARTE」。注文後、季節の野菜を使ったアミューズ ブーシュが運ばれてきます。小さな一口の中で食感と香りが移り変わり、この店の野菜への向き合い方が早くも伝わってきました。
パンは自家製のオーガニックブレッドが2種類。小さなワゴンでテーブルまで運ばれ、温かいうちに供されます。香ばしい生地に合わせる北海道産の発酵バターは、厚みのあるミルクの風味がありながら、口溶けはなめらかでした。
スターターは、低温でしっとりと火を入れた鮪です。身のきめが細かく、舌触りはなめらか。季節の茸の土を思わせる香りに、少量のマーマレードが甘みと酸味を添えます。いくつもの要素を重ねながらも、鮪の風味はきちんと残っていました。
一皿目のメインに、私は松川鰈を選びました。身の締まりを残した火入れで、海苔を利かせたジュが魚の淡い旨味を支えます。付け合わせは、海老を詰めたジャガイモ。ほくりとした甘さが魚と穏やかな対比をつくります。夫が選んだオマールブルーには、ハーブの葉を写した薄いパスタと色鮮やかな季節野菜が添えられていました。オマールの濃い旨味には、磯の香りを帯びたクリーミーなコライユソースがよく合います。
二皿目は、仔牛に赤カボチャ、クルミ、黒イチジクを合わせた一皿です。仔牛は中心までしっとりと火が入り、穏やかな肉の旨味が残っています。カボチャと黒イチジクの甘みのあとにクルミの香ばしさが続き、量はしっかりありながら、重さを感じさせませんでした。
デザートの前には、フランス産フロマージュのセレクションも追加しました。熟成の異なる品がそろい、出会う機会の少ないものもあります。口をさっぱりと整えるプレデセールのあと、最後はババ オ ラム。ラム酒を十分に含ませた生地へ、ほのかに香る軽いクリームを添えています。見た目は端正ですが、食後の満足感は十分です。
食後は、香りの穏やかな日本茶を選びました。好みに応じてブレンドするハーブティーも用意されています。ワゴンに並ぶフレッシュハーブから好みのものを選ぶと、目の前で一杯ずつ抽出してくれます。
料理と同じく、ワインリストも季節に合わせて更新されます。選定するのは、パレスホテル東京のシェフソムリエ、佐藤 隆正氏。セラーにはフランスのグラン・クリュをはじめ、オーガニックワインやナチュラルワインまで、500を超えるヴィンテージ、約4,800本が収められています。
食事を終えて
エステールで印象に残ったのは、料理、眺望、器、サービスのどれかが前に出すぎず、互いを邪魔しない距離感でした。皇居の緑を望む空間は控えめで、料理もフランスの技法を誇示することなく、日本の食材の持ち味を丁寧に引き出しています。食事は急かされることなく進み、一皿ごとの余韻をゆっくり確かめられました。東京で、景色と季節感を大切にしたディナーを落ち着いて味わいたいとき、候補にしたい一軒です。
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