帝国ホテル 寅黒でいただく、秋のおまかせ料理
東京・日比谷、帝国ホテル 東京の本館地下1階にある「帝国ホテル 寅黒」。ミシュラン一つ星の日本料理店で、店主の鷹見将志氏が、炭火や蒸しの火入れ、出汁を生かして季節の素材を仕立てる。この夜にいただいた、秋のおまかせ料理を紹介したい。
帝国ホテル 東京、日比谷で重ねてきた歴史
帝国ホテル 東京は、海外からの賓客を迎える「日本の迎賓館」として、政財界人らの働きかけにより1890年に開業した。皇居外苑の南に位置し、日比谷公園や銀座にも近い。1923年には、フランク・ロイド・ライト設計の2代目本館、通称「ライト館」が完成。現在の本館は1970年、インペリアルタワー(現・帝国ホテルタワー)は1983年に開業した。各時代の建物とともに迎賓の役割を受け継ぎ、現在は館内に幅広いレストランを擁する。その一つが、本館地下1階の「帝国ホテル 寅黒」である。
木の陰影を生かした、全26席の店内
店の軸となるのは、ゆとりのある14席のカウンター。濃淡の異なる木を使い、和の佇まいに現代的な表情を加えている。全26席で、個室は3室。装飾を控えた空間だけに、料理人の所作や器、一皿の細部へ自然と目が向かう。
カウンター席からは、旬の食材が炭火にかけられ、蒸し上げられていく様子を間近に見られる。伝統的な技を土台にしながら、仕立てや組み合わせには現代の感覚がある。料理が形になるまでを見届けられることも、この席の面白さだ。
鷹見将志氏、和食に生かすフランス料理の技
店主の鷹見将志氏は、帝国ホテル 寅黒に加わる前、当時ミシュラン三つ星だった「神楽坂 石かわ」と「虎白」の両店で研鑽を積んだ。石かわグループと帝国ホテル、それぞれの考えを受け継ぎ、出汁や炭火焼きといった日本料理の仕事に、コンソメやコンフィなどフランス料理の手法を取り入れている。異なる技を目立たせるのではなく、一皿の中で味を自然につなげるところに、鷹見氏らしさがある。
献立には、伊勢海老、松葉蟹、剣先烏賊をはじめ、鯖や太刀魚、すっぽん、キャビア、天然きのこなど、季節ごとにさまざまな食材が並ぶ。その日の状態を見ながら火入れと味の重ね方を変え、料理に合わせる酒や飲み物も細やかに選ぶ。華美な見せ方ではなく、素材を選ぶ目と仕事の精度で味を組み立てている。
秋のおまかせを一皿ずつ
温かな出迎えを受け、席に着く。日本酒を中心とした酒の品揃えにも心が動いたが、私たちが選んだのは、KIMINOの「YUZUスパークリングジュース」。爽やかな酸味と控えめな甘さがあり、食事の始まりによく合った。
先付は、松茸と銀杏を添えた玉子の蒸し物。なめらかな玉子に松茸の香りが重なり、穏やかな始まりとなる。続く揚物は、秋刀魚を包んだ春巻き。香ばしい皮と脂ののった身を、大根おろしと梅の酸味が軽くしていた。
椀物は、鱧のすり身、松茸、菊花、三つ葉を澄んだ吸い地に合わせたもの。出汁は素材の香りを覆わず、輪郭だけを整えている。造りは二種。鯛には海苔と醤油を、鮑には肝のソースと芽ねぎを添える。鮮度の良さに加え、鯛には海苔の磯香、鮑には肝のコクが過不足なく寄り添っていた。
焼物は、炭火で焼いたすっぽんに、黄にら、青唐辛子、柚子味噌を添えた一皿。すっぽんの濃いうま味を、柚子の香りと辛味が引き締める。私がとりわけ気に入ったのは、続く中皿の蒸し物だった。蒸したご飯に穴子をのせ、干し海苔と山椒を添えている。穴子の甘みが米にほどよく移り、海苔と山椒の香りが後から続いた。
冷し物は、冷製のロブスターに茄子と鰹のクリームを合わせたもの。コクはありながら、冷製らしく後口は軽い。煮物には、椎茸と長ねぎを添えた和牛頬肉が登場する。時間をかけて煮込まれた肉は箸でほどけるほどやわらかく、黄辛子の穏やかな刺激で味が締まっていた。
締めは、鹿沼在来そばに雲丹、塩昆布、胡瓜をのせた一皿。雲丹のコクを塩昆布の塩気と胡瓜の青さが整え、その後の釜飯へすっきりとつないだ。食事は、舞茸、鮭、いくらを炊き込んだ釜飯。蓋を取ると舞茸が香り、釜底には香ばしいおこげ、中のご飯はふっくらと炊き上がっている。鮭の脂といくらの塩気が米になじみ、おこげを含むひと口には香ばしさが加わる。火加減を見る鷹見氏の所作を目の前で追えるのも、カウンター席ならではだった。
甘味も秋の果実が中心。葡萄の風味を濃く出したアイスクリームに、甘くみずみずしい巨峰を添え、ほのかに酒香を残すジンのゼリーで後口を軽くしている。ローストした松の実の香ばしさと歯触りもよい。最後は、やわらかな「椰子の白わらび餅」。果実の酸味から穏やかな甘さへ移り、長いコースの後にも重さを残さない終わり方だった。
技法を前に出さない、寅黒の料理
食後に印象として残ったのは、技法の新しさよりも、一皿ごとの味の収まりのよさだった。素材の状態に応じた火入れ、出汁の濃淡、料理が運ばれる間合いまで無理がない。カウンター越しに料理人の手元を見ながらいただくと、献立の季節感や皿同士のつながりも、よりはっきりと伝わってきた。派手さに頼らず、ミシュラン一つ星の理由を料理の流れの中で確かめられる店だった。
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Torakuro