東京駅を望むパリ風ビストロ、MAISON MARUNOUCHI
人の流れが途切れない東京の中心で、MAISON MARUNOUCHI(メゾン マルノウチ)は、ひと息つける場所だ。大きな窓の向こうでは、都市の景色が絶えず動いている。一方、店内にはフランスのビストロを思わせる温かさと、東京らしい端正さが同居する。食事だけでなく、会話を交わしながらゆっくりとテーブルを囲みたくなる空間だ。料理は一見素朴だが、味の組み立てには明確な意図がある。
全57室のフォーシーズンズホテル丸の内 東京
フォーシーズンズホテル丸の内 東京は、賑わいの絶えない丸の内にありながら、館内へ入ると空気が静かに切り替わる。壮麗さを押し出す大型ホテルではなく、全57室という規模を生かした距離感とプライベート感が持ち味だ。ニュートラルな色調の現代的な内装は、一般的な五つ星ホテルというより、落ち着いた会員制クラブを思わせる。小規模でもサービスに不足はない。東京駅に隣接し、周囲にはショップやレストラン、オフィス街が集まるため、街の活気を身近に感じながら静かに過ごせる。
新幹線を望むビストロ空間
自然光が差し込む店内には、パリのビストロに通じる親しみやすさがある。マンダリンオレンジとモスグリーンを基調に、トーネットの椅子や大きな共用テーブルを配置。フランスらしい意匠を取り入れながら、全体はすっきりと整えられている。窓の外を新幹線が行き交い、その向こうでは丸の内の街並みが時間とともに表情を変える。特徴のある照明や、フランスのビストロを思わせる木部の造作、ヴィンテージの要素もさりげない。建築家アンドレ・フーが細部まで手を入れつつ、会話の弾む居心地のよい空間にまとめている。
現代の感覚で仕立てるビストロの定番
MAISON MARUNOUCHIの軸にあるのは、フランスの伝統的なビストロ料理を現代の感覚で捉え直すこと。料理を監修したのは、ミシュラン三つ星のSÉZANNE(セザン)を率いていた総料理長ダニエル・カルバートだ。親しみのある味を土台に、緻密な技術を重ねている。朝食からアフタヌーンティー、ディナー、夜の一杯まで利用でき、友人とのブランチにもビジネスランチにも馴染む。なかでも、軽い衣を香ばしく揚げたマルノウチ フライドチキンは店を代表する一品。飾り立てず、料理人の個性とほっとするおいしさをまっすぐに伝えている。
エグゼクティブ・スーシェフのラウル・サヴィが大切にするのは、肉や魚を余すところなく使う「ノーズ・トゥ・テール」と、野菜を根から新芽まで生かす「ルート・トゥ・シュート」の考え方だ。伝統に根差した料理教育と星付きレストランで積んだ経験を土台に、良質な肉を選び、保存食作りにも力を入れる。季節の食材を使いながら、料理はあくまで親しみやすい。独創的なカクテルや、吟味されたワインとの相性も考えられている。
3つのランチコースを実食
ランチは「Marunouchi」「Maison」「De Luxe」の3コースに加え、アラカルトも揃う。私たちはまず、ノンアルコールのスパークリングドリンク、So Jennie Parisをグラスで注文した。軽やかな泡が心地よく、食前の一杯にちょうどいい。前菜を待つ間には、コンテのグジェールとサワードウブレッドをシェア。小さなグジェールは黄金色に焼け、中はふんわりと軽い。表面にはチーズがたっぷりとのっている。厚切りのサワードウは、香ばしく焼けたクラストが印象的だ。なめらかな半球状に整えたボルディエバターは、コクがありながら後口に重さを残さず、つくりの確かさが伝わってきた。
前菜の二皿はいずれも、この日の記憶に強く残った。毛蟹のタルトは、薄く軽い生地の中に、やわらかな長ねぎと春菊を層にして重ねている。春菊のほろ苦さが毛蟹の甘みを引き締め、上に盛った蟹の身とフレッシュハーブには、柚子マヨネーズの明るい酸味がよく合う。冬の始まりを感じさせる、筋の通った一皿だった。
もう一皿は、正方形に仕立てたクロックマダム。均一に焼き色をつけたパンでハムと溶けたチーズを挟し、中央に艶のある卵黄をのせている。濃厚な卵黄とカリッと焼けたパンの対比が心地よい。造形は簡潔で、馴染み深い料理を現代的に見せる、過不足のない仕立てだった。
メインは、肉と魚を一皿ずつ選んだ。イベリコ豚の肩肉は厚切りで、表面を香ばしく焼き、中は時間をかけて火を通してある。下に敷かれた舞茸は、しっかりした歯応えとウッディな香りがあり、豚肉の濃い旨味によく合う。チミチュリソースの青い香りが脂を切り、付け合わせには小さな銅鍋で焼いたサツマイモのグラタン。香ばしい焼き目の下はやわらかく、穏やかな甘みがある。量はしっかりしているが重たさは残らず、自然と手が伸びた。
ドーバーソールのムニエルは、対照的に穏やかな味わいだ。淡い黄金色に焼いた魚に、香り高い焦がしバターをたっぷりとかけ、カリッとした桜海老で食感と旨味を加えている。ケイパー、ハーブ、フライドシャロットの香りが重なり、最後まで単調にならない。ローストポテトと、ほのかな辛味のあるクレソン、好みで酸味を足せるレモンを添えた一皿。フランス料理の技法に、日本の食材が無理なく馴染んでいた。
最後はデザートを二品シェアした。シグネチャーの「季節のミルフィーユ」は、整った造形がまず目に留まる。黄金色に焼いた3層のパイ生地の間には、レモンとプラリネの軽いクリームが規則正しく絞られている。レモンの鮮やかな酸味がプラリネのまろやかさを引き締め、キャラメリゼしたアーモンドの香ばしい歯触りが続く。現代的な見せ方と、菓子作りの確かな技術が素直に伝わるデザートだ。
クレーム・キャラメルは、艶のあるなめらかな質感から、丁寧な火入れが見て取れる。バニラの香る絹のようなカスタードを、たっぷりの琥珀色のキャラメルが囲む。ほのかな苦味が甘さを整え、薄いキャラメルのチュイルが軽い歯触りを添えていた。古典的なデザートを、余計な飾りに頼らずきちんと仕上げている。
総評
MAISON MARUNOUCHIでは、フランスのビストロ料理が、丸の内の景色や日本の食材と自然に結びついている。定番料理の輪郭を残しつつ、盛り付けや味の重ね方には新しい解釈がある。東京駅と新幹線を望む気取らない空間で、きちんとおいしいビストロ料理を食べたい日に覚えておきたい一軒だ。
連絡先
MAISON MARUNOUCHI