東京・銀座、二つ星フレンチ「ロオジエ」のランチ
4度目の東京滞在では、少し趣向を変えることにした。寿司や神戸牛、焼きそば、天ぷらといった日本料理には目がないが、今回はミシュランの星を持つフランス料理店へ。選んだのは、1973年の創業以来、東京の食通や海外からの客を迎えてきたロオジエ。厨房を率いるのは、同店を二つ星へ導いたオリヴィエ・シェニョンだ。
ロオジエが店を構えるのは銀座の中心部。店名は、かつて銀座の象徴だった柳を意味するフランス語に由来する。周囲には海外ブランドのブティックや名の知れた店が並ぶ、銀座らしい一角だ。
意外だったのは、ロオジエを運営しているのが日本の化粧品会社、資生堂であること。長く厨房を預かったジャック・ボリーから、2005年にブルーノ・メナールへバトンが渡された。2011年には建て替えのため休業し、2013年、資生堂銀座ビル内で営業を再開。同時にオリヴィエ・シェニョンがエグゼクティブシェフに就任した。
厨房を率いるオリヴィエ・シェニョン
ランチの後、厨房でシェニョンシェフに会う機会に恵まれた。豊かな経歴の持ち主だが、気さくで話しやすい。フランス中北部に生まれ、パリのタイユヴァンやピエール・ガニェールといった星付きレストランで腕を磨き、「ピエール・ガニェール・ア・東京」の総料理長を経てロオジエへ移った。
シェニョンの料理の軸は、正統なフランス料理にある。日本の味覚へ安易に寄せることはない。食後の客から「パリの名店以上にフランスらしい料理を東京で味わった」との声が聞かれるのも、そのためだろう。
春を映すランチ
ランチはアラカルトのほか、1万円(約76ユーロ)のコースと、1万4,000円(約104ユーロ)の「LES BELLES GOURMANDES」から選べる。ニューヨークやパリの同水準の店と比べると、二つ星店としては比較的抑えた価格だ。
訪れたのは3月半ば。街にようやく春の兆しが見え始め、皿の上にも軽やかな色と季節の食材が増えていた。月末の桜の開花を前に、東京全体が花見を待つ時季。その気分がレストランの料理にも少しずつ表れている。
始まりは、口をすっきりさせる小さなオードブル。前菜は、ホワイトアスパラガスに紫蘇の花、黒トリュフ、帆立を合わせた一皿だった。シェニョンシェフは食材の組み合わせと味を何より重視すると話していたが、盛り付けも見過ごせない。色の置き方から皿の余白まで細やかに整えられ、日本でフランス料理を食べる醍醐味は、こうした細部にもあると思った。
魚料理には、私にとってフランスではほとんど口にする機会のない金目鯛が登場。締まった身に、グリーンピースとそら豆のエミュルションを添えている。火入れは的確で、豆の青々とした風味もよくなじむ。日本では魚介や甲殻類、野菜まで季節の食材が幅広く揃い、それが自身の料理を支えているとシェニョンは話していた。
3皿目は、いかにもフランスらしい牛頬肉。カブ、パースニップ、エシャロットを添え、赤ワインソースで仕上げている。頬肉はゼラチン質を残しながら柔らかく、力強い旨味を古典的なソースがしっかりと受け止めていた。
プレ デセールに続くのは、イチゴのパルフェ。リンゴとサフランを芯に忍ばせ、バニラのソルベと、ケシの花を香らせたエミュルションを重ねている。パルフェをあっという間に食べ終えると、今度はフリヤンディーズのワゴンが到着した。チョコレート、メレンゲ、パート・ド・フリュイ、チョコレートをまとった果実の砂糖漬け、キャラメル…。甘いものが好きなら、選ぶ時間まで楽しい。パリのル・ムーリスで見たハーブティーのワゴンを思い出したが、こちらも目の前に来た途端、思わず声が上がる。
白と金、ガラスの光を生かしたダイニング
内装を手がけたのは、ピエール=イヴ・ロション。白とゴールドを基調に、ガラスの透明感と光を生かした空間だ。鮮やかな現代アートが、端正なダイニングにほどよい緊張感を添えている。
近すぎず、遠すぎないサービス
サービスも印象に残った。支配人の内堀泰彦をはじめ、チームの応対は終始温かく、所作にも無駄がない。到着から退店まで客の様子をよく見て、必要なことを先回りして整えてくれる。フランス語で応対できるスタッフもおり、なかにはバイリンガルもいた。この自然な迎え方も、ロオジエの印象を決めていた。
銀座で出会った、期待以上のフランス料理
二つ星という前評判から期待はしていたが、ロオジエでのランチは想像を上回った。古典的なフランス料理の輪郭と、日本で手に入る食材の豊かさが無理なく同居している。パリから1万キロ以上離れた東京で、フランス料理の芯をこれほど明瞭に示す店に出会えたことが、何より意外だった。
気に入った点
- この日の白眉だった、ホワイトアスパラガスの前菜
- 色と余白まで細やかに整えられた盛り付け
- 食事の最後に現れる、意外性のあるフリヤンディーズのワゴン
気になった点
- ダイニングが地下にある点。十分に明るく設計されているものの、自然光が入れば、さらに心地よく感じられそうだ。
基本情報
- 平日と土曜日のランチ、ディナーに営業。日曜日は休業。
連絡先
L'Osier