ベージュ アラン・デュカス 東京|シャネル銀座で味わうフランス料理
銀座の街並みを望む「ベージュ アラン・デュカス 東京」。シャネルの美意識とアラン・デュカスの料理哲学が、華美に傾くことなく細部まで行き届いています。日本の旬を取り入れたフランス料理と、ベージュを基調とする落ち着いた空間。自然と一皿に意識が向かう、銀座らしい緊張感と心地よさを備えたレストランです。
シャネル銀座10階のダイニング
店があるのは、シャネル銀座ビルディングの最上階にあたる10階。シャネルとデュカス パリの協働から生まれたレストランです。オートクチュールに通じる美意識とフランス料理の技術を結びつけながら、銀座の街にも無理なく馴染んでいます。
内装を手がけたのは建築家のピーター マリノ。シャネルを象徴するベージュとクリームを基調に、木、銅、漆など、質感の異なる素材を重ねています。ツイードを思わせるアームチェアと抑えた照明が緊張をほどき、定期的に入れ替わるアートが空間に変化を与えます。随所に見られる日本的な意匠も主張しすぎず、全体にすっきりと馴染んでいました。
日本の旬を生かした軽やかなフランス料理
料理の軸にあるのは、素材そのものの輪郭を曇らせないというアラン・デュカスの考え方です。旬の食材にフランス料理の古典的な技法を用いながら、食後に重さを残さない味に仕立てています。野菜や穀物をはじめ、魚介、鶏、肉にもそれぞれ異なる役割があり、食感や香り、余韻まで丁寧に考えられています。
フランスから届く食材と、日本各地から季節ごとに選ばれる素材を、一皿の中で自然に結びつけているのもこの店の特徴です。ワインペアリングは、フランスの銘醸ドメーヌやクリュを中心に、コースの流れに沿って組まれています。ミシュラン一つ星を支える技術は、目立つ演出ではなく、火入れやソースの精度に表れていました。
アラン・デュカスの歩み
フランス南西部ランド地方の農園で育ったアラン・デュカスは、幼い頃から自然と食材の近くで過ごしました。16歳で料理の道に入り、ミシェル・ゲラールやアラン・シャペルらのもとで研鑽を積んだ後、モナコの「オテル・ド・パリ」内にある「ル・ルイ・キャーンズ」の総料理長に就任。33歳で、ホテル内レストランとして史上初のミシュラン三つ星を獲得しました。1998年にはパリの自身のレストランでも三つ星を得ています。レシピにとどまらず、内装や食器、厨房の動線まで一体で考えるのがデュカスの流儀です。現在は各国でビストロから三つ星レストランまでを展開し、料理教育機関「エコール・デュカス」も設立。レストランやホテルに加え、ショコラ、コーヒー、パティスリーへと活動を広げています。
ランチのシグネチャーコース
この日のランチにはシグネチャーメニューを選びました。緻密な技術を見せながらも味は親しみやすく、コースの緩急もよく考えられています。最初に供されたのは、ノンアルコールのスパークリングワイン「ヴーヴ・ボリー」と、3種の小さなアミューズ。黒い球体は、炭をまとわせた皮の中に旨味の濃い豚肉のソーセージを忍ばせたものです。燻香が肉の味を引き締めます。黄金色のグジェールは表面が香ばしく、中は空気を含んで軽やか。チーズの塩味も穏やかです。薄い生地にクリーミーなフィリングを重ねた茸のタルトからは、森を思わせる香りと土の風味が静かに広がりました。
続くアミューズ・ブーシュは、低温で火を入れた北海道産牡蠣です。真珠色の身はみずみずしさを保ち、舌の上でなめらかにほどけます。まろやかなクリーム状のベースに青々としたハーブのソースを合わせ、刻んだ香草で香りと歯触りに変化をつけていました。
「冬野菜の冷製クックポット 大根のゼリー」には、大根をはじめ、日本各地の葉野菜や根菜が使われています。食材ごとに火入れを変え、歯触りや甘味の違いを明確にした一皿です。大根のゼリーが涼やかさを、根セロリのムースがなめらかな厚みを加え、仕上げのキャビアが塩味と海の香りを添えます。野菜の穏やかな甘味を中心に、それぞれの要素が過不足なく収まっていました。
「ホタテ貝のナクレ バターナッツカボチャのグラチネ ベーコンのクリーム」は、ホタテの表面にだけ焼き目をつけ、中心にはしっとりとした質感を残しています。バターナッツカボチャの自然な甘味に、燻製ベーコンのクリームが塩気と香ばしさを重ねます。ホタテの端材とカボチャから取ったソースが両者をつなぎ、カボチャのチップは軽い歯触り。仕上げの白トリュフも、貝の風味を覆うことなく香っていました。
「オマール海老とセップ茸の軽い煮込み ハーブのパスタ」は、海と森の香りを無理なく合わせた一皿です。弾力を残したオマール海老に、肉厚で香りの深いセップ茸と、ハーブの香るしなやかなパスタを添えています。凝縮したビスクをもとにしたソースには甲殻類の旨味がありますが、口当たりは重くありません。軽い泡仕立てが、その密度をほどよく和らげていました。
メインは「熊本県産赤毛和牛のポワレ ポロねぎとジャガイモのコンフィ」。細やかなサシを生かした火入れで、肉はやわらかく、牛のジュにも旨味が凝縮しています。ポロねぎとジャガイモのコンフィのほのかな甘味に対し、ペパーミントの香りが脂の余韻をすっと切る。意外性はありながら、食後には軽さが残りました。
デザートの前には、柿と柚子を使った小さな一皿が運ばれます。軽く甘味を含ませたやわらかな柿に、柚子の澄んだ酸味と、なめらかなアイスクリームを合わせた口直しです。数種類から選べるデザートでは、私は「ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房のショコラとリンゴのカメリヤ」を選びました。カカオの濃い味にヘーゼルナッツの香ばしさを重ね、リンゴの酸味で軽やかな抜けをつくっています。添えられたショコラのアイスクリームからも、冷たくクリーミーな口当たりとともにカカオの余韻が続きます。夫が選んだのは、名物の「ババ・オ・ラム モンテカルロ風」。温かさを残したババに、テーブルでラムをたっぷり注ぎます。生地は空気を含んだようにやわらかく、添えたホイップクリームがラムの強さを和らげていました。古典菓子の魅力を正面から楽しめるデザートです。
ランチの最後はミニャルディーズ。自然な曲線を描く木製スタンドに、端正な形のショコラと、果実の風味を凝縮した小さなタルトが並びます。見せ方には遊び心がありますが、甘さは穏やか。最後の一口まで重たさを感じさせませんでした。
ランチを終えて
「ベージュ アラン・デュカス 東京」で印象に残ったのは、シャネルとの協働が意匠だけにとどまらず、素材の選び方、料理の精度、サービスの間合いにまで通じていることでした。ピーター マリノの空間には料理へ意識を向けられる余白があり、アラン・デュカスの料理からは、正確な技術と食材への敬意が伝わります。銀座の街を見下ろしながら、オートクチュールとガストロノミーに共通する緻密な仕事を、落ち着いて味わえる一軒です。
連絡先
BEIGE Alain Ducasse