東京ステーションホテルで、歴史ある駅舎に泊まる
赤煉瓦の東京駅丸の内駅舎に入る東京ステーションホテル。開業から一世紀を超えた今も、建築の来歴を身近に感じられる一方、館内には現代のホテルに求められる快適さが整っている。東京の中心にありながら、街の喧騒から距離を置いて過ごせる一軒だ。
東京を巡る拠点としての丸の内
東京ステーションホテルがあるのは、東京駅に直結する丸の内。JR、地下鉄、新幹線をすぐ利用でき、仕事にも観光にも動きやすい。皇居外苑や銀座は徒歩圏内で、館内からつながる地下街にはショップやレストランが集まる。新宿や渋谷方面への移動もしやすく、東京各所を巡る拠点として使い勝手がよい。
赤煉瓦駅舎に残る歴史
ホテルが入る東京駅丸の内駅舎は、国の重要文化財。創建時から残る赤煉瓦や復原されたドームと、再開業時に整えられたヨーロピアン・クラシックの内装が自然になじんでいる。アーチを描く天井や磨かれた床、随所に残る意匠をたどると、建物が歩んできた時間が見えてくる。駅の中とは思えないほど館内は静かだ。スタッフの応対も控えめで、必要な場面では動きが早い。
東京駅の開業翌年にあたる1915年、東京ステーションホテルは誕生した。以来、文豪や文化人、国内外の旅人を迎えてきた。関東大震災を経て、第二次世界大戦中には空襲で駅舎の一部を焼失。戦後の復旧を経たのち、ホテルは丸の内駅舎の保存・復原工事に伴って2006年に休館した。約6年半を経て、2012年に再開業。駅舎の外観は創建時の姿を取り戻し、館内はヨーロピアン・クラシックを基調に改められた。歴史を展示物として眺めるのではなく、今も使われている建築の中で過ごせることに、このホテルならではの価値がある。
歴史建築に備わる、今の快適さ
2012年の再開業に合わせて刷新された客室とスイートは全150室。クラシックな意匠を基調としながら、現代的な設備を無理なく取り入れている。高い天井と落ち着いた色調、端正な家具、身体をしっかり支えるベッドがあり、客室で長く過ごしても疲れにくい。広めのバスルームを備え、客室タイプによってはレインシャワーも用意されている。客室へ続く廊下には、東京駅や丸の内、ホテルの歴史を伝える写真や資料が約100点並び、歩きながら小さな展覧会を見るような楽しさがある。
私たちが滞在したのは、65m²のメゾネットキング。スイートほどの付帯設備は必要ないものの、広さとプライベート感は確保したい人に向く。室内は二層に分かれ、下階には吹き抜けのリビングがあり、大きな窓の向こうに丸の内の街並みが広がる。高い天井に、直線の美しいクラシック家具と温かみのあるファブリックがよく合い、明るさの中にも落ち着きがあった。階段を上がったメザニンは、キングサイズベッドを置いた寝室。モールディングを施した空間に、ガラス天井越しの自然光がやわらかく差し込む。生活の場と眠る場所をきちんと分けられ、見た目以上に使いやすい客室だった。
和洋約100種類が並ぶ、アトリウムの朝食
朝食会場は、自然光が入るゲストラウンジ〈アトリウム〉。宿泊者向けのブッフェには、和洋の料理と飲み物が約100種類並ぶ。オーガニックジュースや搾りたてのオレンジジュースをはじめ、ペストリー、パン、シリアル、ミューズリー、ヨーグルト、季節のフルーツまで選択肢は多い。温かい料理では、シェフが注文を受けてから仕上げるオムレツが看板メニュー。和食の「ASA-GOHAN」には、炊きたてのご飯、味噌汁、焼き魚、季節の惣菜が一通りそろう。
用途で選べる、10のレストランとバー
館内にはレストラン、バー、カフェが計10店舗ある。会食向きのランチから、時間をかけるディナー、気軽なティータイムまで、用途に応じて選びやすい。フランス料理やイタリア料理、日本料理、中国料理のほか、鮨や焼鳥もそろっている。
日本料理では、江戸前の仕事に加賀の風土を重ねた〈鮨処 あさの川〉がある。日本料理/鉄板焼〈丸の内一丁目 しち十二候〉では、季節の食材を使った会席と鉄板焼を用意し、個室での会食にも対応する。紀州備長炭で一本ずつ焼き上げる〈焼鳥 瀬尾〉はコースが中心で、腰を据えて食事をしたい夜の候補になる。
〈ブラン ルージュ〉は、日本各地の食材をフランス料理の技法で仕立てるホテルのメインダイニング。端正な店内には約1,000本を収めるワインセラーがあり、料理に合わせて幅広い銘柄から選べる。私たちは前年のランチでもこの店を訪れている(関連記事:東京ステーションホテル「ブラン ルージュ」で味わう、歴史と品格)。イタリア料理/ワインバー〈エノテカノリーオ〉では、北イタリアを軸に素材を生かした簡潔な皿を、本場イタリアのワインとともに味わえる。中国料理〈カントニーズ 燕〉は、医食同源の考えを取り入れ、野菜を生かした広東料理が中心。重たさを抑えながらも、味はぼやけない。
食後や待ち合わせには、バーとラウンジを使い分けたい。創建時の赤煉瓦を生かし、照明を落とした〈オーク〉では、国産ウイスキーやシグネチャーカクテル「東京駅」を楽しめる。バー&カフェ〈カメリア〉は、昼は軽食やペストリー、夜はオリジナルカクテルを扱う。高い天井と縦長窓が印象に残る〈ロビーラウンジ〉は、コーヒーや紅茶、デザートでひと息つくのにちょうどよい。〈トラヤ トウキョウ〉では、16世紀創業の虎屋が受け継ぐ和菓子を、赤煉瓦を間近に眺めながら味わえる。
地下1階のフィットネスとスパ
地下1階には、フィットネス、スパ、温浴設備がまとまっている。「URBAN CAVE -都会の洞窟-」をコンセプトとするTHE JEXER TOKYO フィットネスラウンジ(ザ・ジェクサー・トーキョウ)は、会員とホテル宿泊者が利用できる施設。各種マシンがそろい、経験豊富なトレーナーに目的に応じたアドバイスも受けられる。〈庵SPA アンスパ〉では、日本ならではのプロダクトや専用化粧品を使い、利用者に合わせたトリートメントを行う。バス&リラクシングには人工温泉、人工炭酸泉、水風呂、ドライサウナ、スチームサウナ、シャワーがあり、移動や街歩きの後に身体を休める場所として使いやすい。
総評
このホテルで最も価値を感じたのは、東京の近代史を刻んだ建物に実際に泊まれることだった。保存・復原された意匠を見るだけでなく、その中で眠り、食事をし、駅へ向かう。そうした日常の動作を重ねるうちに、建築の魅力が具体的に伝わってくる。客室の快適さやレストランの選択肢、ウェルネス施設にも不足はなく、サービスの距離感も心地よい。歴史を背景にしながら、現在のホテルとして無理なく機能している点が印象に残った。
良かった点:
- 国の重要文化財である東京駅丸の内駅舎に泊まれること。保存・復原された建築の存在感は、ほかのホテルでは得がたい。
- 東京駅に直結し、銀座へも歩いて行ける立地。都内各所へ移動しやすい。
- 二層構造ならではの広がりがあり、居住性にも優れたメゾネットの客室。
気になった点:
- 朝食は品数こそ多いものの、ホテルの格と期待値を考えると、満足のいく内容には届かなかった。
基本情報
- メゾネットの宿泊料金は、2025年9月時点で900ユーロ。
連絡先
空室を確認The Tokyo Station Hotel