旧館の記憶と今の東京が交わる、パレスホテル東京
皇居の緑と丸の内の街並みが向き合う一角に、パレスホテル東京は立つ。長い歴史を受け継ぎつつ、自然光の入る空間、確かな料理、出すぎないサービスに、今の日本らしさが表れている。東京を代表するこのホテルに宿泊し、客室、クラブラウンジ、ダイニング、スパまでをじっくり体験した。
皇居の緑と丸の内、その間に泊まる
パレスホテル東京は、丸の内のなかでも恵まれた場所にある。目の前には濠と皇居外苑の緑が広がり、多くの客室やレストラン、スパからその景色を望める。丸の内仲通りのブティックやレストランへは歩いてすぐ。地下鉄大手町駅に直結し、新幹線や各線が乗り入れる東京駅からも徒歩約10分と移動しやすい。皇居周辺の落ち着きと都心ならではの利便性を併せ持ち、東京を巡る拠点として使いやすい立地だ。
旧館の面影をたどる
ホテルの歩みは、戦後間もない1947年にさかのぼる。旧帝室林野局庁舎を改築した国有国営ホテル「ホテルテート」として開業。1959年に民間へ払い下げられ、1961年には450室を擁するパレスホテルが誕生した。国内外の著名な芸術家や賓客を迎えながら半世紀にわたって歴史を重ねたのち、建物を全面的に建て替えることに。約3年の工事を経て、2012年にパレスホテル東京として再出発した。
新館にも、50年以上にわたって培われた旧館の面影が穏やかに残る。天井の高いロビーには植物を描いた壁面作品と生花が配され、大きな窓から自然光が入る。規模の大きなホテルでありながら画一的な印象はなく、なかでも日本料理の各店には、独立系ホテルならではの土地との結びつきが感じられた。
館内のパブリックスペースに展示されているアートは、絵画や水彩、彫刻、委嘱作品など1,000点を超える。自然や日本の美意識を題材にした作品が多い。旧館の外壁に約160万枚使われていた信楽焼タイルの一部や、修復したロイヤル バーのカウンターも、新しい館内に受け継がれた。深緑のハンドタフテッドカーペット、ラウンジバー プリヴェの葉を思わせるカウンター、ロビー脇のイロハモミジ、エントランスへ続く庵治石の壁面作品。それぞれが、隣接する濠や皇居の緑とさりげなく呼応している。
光と眺望を取り込む客室
全284室の客室とスイートは、十分な広さと抑えた色調が印象に残る。クリーム色と淡い緑、葉を描いたカーペットは、窓外の景色によくなじむ。多くの客室には、東京の高級ホテルでは珍しいバルコニーがあり、皇居側の緑または丸の内の街並みを望める。ガラスで仕切ったバスルームには深いバスタブと独立したシャワーを備え、バスアメニティはバンフォード。今治タオル、寿月堂の茶、南部鉄器の急須、有田焼のカップ、越前漆器の茶托といった日本の品も揃う。夜には温感アイマスクと館内着が用意された。
私たちが滞在したのは、45m²のクラブデラックスツイン・キング with バルコニー。南向きの客室から和田倉噴水公園と皇居前広場を見渡せ、夜には窓外に街の灯が連なる。室内には仕事や軽い食事に使えるシーティングエリアもあるが、この部屋で何よりよかったのは広いバルコニーだ。夕方の風に触れながら皇居の緑を眺める時間は、都心のホテルではなかなか得られない。
クラブラウンジで変わる滞在の流れ
19階のクラブラウンジは、今回の滞在でとりわけ印象に残った場所だ。近年改装された172m²の室内には、アイボリーと温かな色合いの木材、小石を散らしたような柄のカーペットが使われ、明るく肩の力を抜いて過ごせる。料理の水準はもちろん、スタッフが声をかけるタイミングも的確だった。和田倉のシグネチャー朝食からライトスナック、アフタヌーンティー、イヴニングカナッペ、夜のアラン・デュカスのスイーツまで、時間とともに内容が替わる。ロイヤル バーが手がける限定カクテルとモクテルも用意されていた。専任スタッフによる応対、クラブラウンジでのチェックイン、エビアン スパ 東京のサウナと温浴施設の利用も含まれ、単なる付帯設備にとどまらず、滞在の流れを整えてくれる場所だった。
会席、鮨、フランス料理まで揃う館内の食
館内には10のレストランとバーがあり、料理も店内の空気もそれぞれに異なる。東京の食を求めて街へ出るのもよいが、このホテルなら、館内だけで食事の予定を組んでも選択肢には困らない。
中心となる一軒が、ミシュラン一つ星のエステール by アラン・デュカス。日本のホテルとデュカス・パリによる初の協業で、日本各地の素材をフランス料理の技法で端正に仕立てる。石や和紙、木を用い、土を思わせる色調でまとめた店内は、店名が意味する「母なる大地」を具体的な素材で伝えている。シェフの小島 景は、持続可能な方法で生産された食材や有機食材の持ち味を生かし、約4,800本を収蔵するワインセラーが料理の幅を広げる。私たちも前年にここで食事をした。(レビューはこちら:エステール、日本の大地を映すアラン・デュカスのフランス料理)
日本料理 和田倉には、季節の会席を供するメインダイニングのほか、天麩羅 巽、鉄板焼 濠、金坂 真次率いる鮨 かねさかが集まる。久住有生による表情豊かな左官壁、なぐり加工の床、和田倉濠を望む窓、屋内の滝など、日本の素材と職人の仕事が空間をつくっている。
中国料理 中国飯店 琥珀宮では、広東・上海料理を中心に供する。シルクの壁装、古い扉、陶磁器、琥珀色を基調とした内装は、王朝時代の中国を参照しながらも重々しさを感じさせない。東京の街並みを望むテラス席もあり、室内とは違う開放感のなかで食事ができる。
オールデイダイニング グランド キッチンは、朝食からディナーまで利用できる。大きな邸宅を思わせる店内には、オープンキッチン、マーブルのカウンター、両面式の暖炉が配されている。濠沿いのテラスは、都心で屋外の食事ができる貴重な席だ。メニューには、パレスホテルが受け継いできたフランス料理の定番も残る。
メインバー ロイヤル バーでは、旧館から移設して修復したカウンターと革張りの椅子、木を基調とした内装が往時の面影を伝える。「ミスター・マティーニ」と呼ばれた初代チーフバーテンダー、今井 清の技術と精神は、現在のバーテンダーにも受け継がれている。ロビーラウンジ ザ パレス ラウンジでは和の要素を取り入れたアフタヌーンティーを楽しめ、夜にはジャズの生演奏が流れる。
6階のラウンジバー プリヴェは、皇居の緑と丸の内を見渡す落ち着いた一軒だ。エステール、和田倉、鉄板焼 濠から届く料理に加え、季節の彩り小箱「楚々 極」が用意されている。私たちが味わった四段の小箱には、色鮮やかなちらし寿司、端正に切り揃えた野菜、刺身、和牛の焼き物、季節のあしらいとソースが収められていた。段ごとに趣向が変わり、蓋を開けるたびに味と食感の流れが切り替わる。細部まで整った盛り付けと、四段を一つの食事として組み立てる構成の巧みさが印象に残った。
地下1階のペストリーショップ スイーツ&デリには、ペストリーシェフの窪田 修己が手がけるケーキや焼菓子、ショコラが並ぶ。館内各所で供されるシグネチャースイーツも購入できるほか、伊勢丹新宿店、日本橋三越本店、松屋銀座にはパレスホテル東京スイーツブティックの常設店がある。
皇居の緑を望むエビアン スパ 東京
1,200m²のエビアン スパ 東京は、日本で唯一のevian®ブランドのスパであり、フランス国外でも3施設しかないうちの一つだ。山中を巡る水の旅を着想源に、淡い色の石材と木、赤のアクセント、波のように連なる天井を取り入れている。5室のトリートメントルームにはそれぞれアルプスの峰の名が付き、大きな窓の先には皇居の緑が広がる。フランスとアジアの技術を組み合わせた施術のほか、窓に沿う温水プール、サウナ、温浴・冷浴施設、男女別のリラクセーションラウンジ、自然光の入るフィットネスルームを利用できる。トレーニング機器はテクノジム社製だ。
私が受けたのは、日本の植物に着目した「“warew”ボディ トリートメント」。アジアの技術をベースに、緩急のあるリズムと的確な圧で身体の深部へ働きかけ、循環を促す施術だ。わび・さびの美意識から着想を得たwarewには、古くから日本で育てられてきた植物が使われている。穏やかな香りと温かさ、重心のぶれない滑らかな手技が重なり、施術後は身体の輪郭がすっきりと戻ったように感じた。音の少ない環境と余白のある白い空間も心地よく、ホテルで過ごす一日の流れを整える時間になった。
宿泊を終えて
パレスホテル東京では、客室、食事、スパ、クラブラウンジがそれぞれに個性を持ちながら、館内で過ごす一日として自然につながっている。旧館の記憶や日本の素材も、説明的になりすぎず随所に残されていた。何より印象深かったのは、必要な場面ではすぐに応じながら、過度に前へ出ないサービスの距離感だ。東京でホテルそのものを目的に滞在するなら、まず候補に挙げたい一軒である。
よかった点:
- 皇居外苑に面し、大手町駅に直結。丸の内や銀座を歩いて巡りやすい。
- 十分な広さと快適さを備えた客室。東京では希少なバルコニーからの眺めもよい。
- 料理、空間、サービスの水準が揃い、静かに過ごせるクラブラウンジ。
気になった点:
- 特になし。滞在を通して気になる点は見当たらなかった。
基本情報
- 2025年9月に宿泊したクラブデラックスツイン・キング with バルコニーは、1泊1,500ユーロ。
連絡先
空室を確認Palace Hotel Tokyo