ふふ 京都:明治の庭と客室温泉を楽しむ、南禅寺界隈の宿
南禅寺にほど近い岡崎の「ふふ 京都」は、控えめな入口の先に庭と客室棟を置く温泉宿です。2021年に開業し、すべての客室に檜の温泉風呂を備えています。明治期の面影を残す庭、季節の日本料理、木や和紙を使った館内には華美な装飾がなく、水音とやわらかな光、桜と白檀のほのかな香りが一貫した落ち着きをつくっています。
南禅寺と美術館を歩く、岡崎の立地
琵琶湖疏水と東山の麓に挟まれた岡崎は、京都市京セラ美術館、南禅寺、明治期を代表する庭園の無鄰菴が徒歩圏内。かつて政財界人の別荘が築かれた界隈の面影も残っています。水辺から緑に沿って延びるアプローチを進むと、小さな池のある庭と落ち着いた館内へ。周辺の飲食店やショップにも歩いて立ち寄れる一方、敷地へ入ると街の気配はすっと遠のきます。
光と木を生かした、現代の旅館
彩雲デザインがブランディングとアートディレクションを担った館内では、格子越しの光や水音、木の手触りが、直線的な空間の硬さを和らげています。色は自然素材に寄せ、装飾は控えめ。木と和紙の間仕切りに囲まれたレセプションには、自然と声を落としたくなる静けさがあります。季節の飲み物をいただきながらのチェックインも形式張らず、その後の滞在を無理なく案内する丁寧なものでした。
こうした控えめな設えは、2007年に「ふふ 熱海」から始まった「ふふ」に通じるものです。現在は国内で10施設を展開し、2025年開業の「ふふ 東京 銀座」にも、私たちは数か月前に滞在しました(関連記事:ふふ 東京 銀座を訪ねて:都心に生まれた現代の旅館)。京都では、照明を落とした廊下に差す光が生け花を照らし、その先に庭の緑がのぞきます。客室へ向かう途中にも檜や季節の花、陰影が途切れず、館内の印象を揃えていました。
全40室に檜の客室温泉
客室は4フロアに全40室。広さは約42〜91㎡で、6つのカテゴリーがあります。コンフォートツインから、大文字山と周囲の山並みを望む上位スイートまで、人数や滞在の目的に応じて選べます。
私たちが滞在したのは、約73㎡のふふラグジュアリーコーナースイート。シモンズ製マットレスを備えたベッド、庭に向けた横長のソファ、艶のある漆、光をやわらかく通す格子、職人の器、季節の花がひとつの空間に調和しています。琵琶湖疏水の波紋を思わせる観世水を織り込んだ特注カーペットも、土地とのつながりをさりげなく示す意匠でした。
全室に設けられた客室温泉は、この宿を選ぶ大きな理由です。檜の浴槽に湯ざわりのやわらかな温泉が注がれ、引き戸を開ければ外気が入り、水面から返る光が天井に揺れます。客室には、桜と白檀が香る余香(YOKOU)のオーガニックアメニティも用意。鉄瓶で淹れる煎茶や手仕事の花器、窓越しの緑を眺めながら、部屋を出ずにゆっくり過ごせます。入口脇には専用の受け渡し口があり、食事や軽食、館内で扱う品を扉を開けずに受け取れる仕組みです。
客室でいただく朝の福重膳
朝食は、「福を重ねる」という意味を持つ福重膳(ふくえぜん)。四段の漆器を開くと、季節の食材を使った小鉢が並びます。レストランと客室のどちらでもいただけますが、私たちは部屋食を選びました。周囲を気にせず、一品ずつ自分たちのペースで食べられるのがいいところです。添えられる庵都汁は、京都の白味噌にふふの出汁を合わせた温かな汁物。白味噌のまろやかな甘みと出汁の旨味が、朝の身体にすっとなじみました。
京の夏を盛り込んだ、庵都の夕食
夕食は、日本庭園を望む「京野菜と炭火料理 庵都(いほと)」でいただきます。細い格子は京都の路地を思わせ、平安期の貴族邸宅に由来する蔀戸、源氏香の文様、手漉きの落水紙、宙に浮かぶ盆栽、季節の花、蒔絵盆が店内に奥行きを与えています。料理の軸は京野菜と炭火。京都の食材や技法を踏まえつつ、盛り付けや火入れには現代的な感覚が見て取れました。
最初の一皿には、七夕の願いを表す色糸を添えた季節の小品が並びます。蛸はやわらかく炊き、南瓜と里芋を添え、上賀茂トマトはラタトゥイユ仕立てに。帆立の焼き物にはズッキーニとじゅんさいを合わせ、鮭と蓮根には香ばしいあられ衣をまとわせています。夏蕪、ホワイトセロリ、京水菜には牛蒡チップを散らし、玉葱のドレッシングで軽くまとめていました。
植物文様の蓋を取ると、冷たい冬瓜のお椀が現れます。澄んだ汁に、ふっくらと揚げた鱧と細い白素麺が入り、輪切りのオクラの緑がよく映えます。柚子と梅肉の酸味で後口は軽く、暑い日に合う一品でした。
続く「鮮と炭遊び」は、冷たい造りと炭火の香りをひと皿で楽しむ趣向です。砕いた氷に据えた黒い器には、鯛と本鮪を色とりどりのあしらい、薄切りの野菜、山葵とともに盛り付けています。白いソースをまとわせて焼いた鰻には、やわらかなへちまを添えて。炙った海苔の歯触りと磯の香りもよく、別添えの調味料で一口ごとに味を変えられました。
祇園祭を題材にしたひと皿では、鱧の小袖寿司に檸檬煮のさつま芋と酢漬けの茗荷を合わせます。夏野菜と車海老の寄せ物にはアスパラガスとヤングコーンを配し、万願寺唐辛子には濃厚な枝豆餡を添えていました。鮎の湯葉巻きと蓼の葉の天ぷらも加わり、小さな料理を重ねて祇園祭の季節を映しています。
和牛サーロインの柚庵焼きは、角切りの肉を炭火で香ばしく焼き、中心は淡い桃色に。淡路島産玉葱、厚揚げ、九条葱を添えています。肉の脂に炭火の香りが重なり、白味噌の甘みの奥に山椒の柑橘を思わせる香りが残ります。山葵と塩も別に用意され、好みの加減で味わえました。
小鍋には、澄んだ琥珀色の出汁と夏鴨、やわらかな鴨つくねが入ります。淡路島産玉葱、出汁を含んだ厚揚げ、細く切った九条葱を添え、鴨の旨味と玉葱の甘みはありながらも重さを感じさせません。
食事は、黒い土鍋で炊いた京丹後産コシヒカリ。艶のある米に甘い玉蜀黍、幅広の三つ葉、照りよく焼いた鱸を合わせています。味噌汁と香の物も添えられ、米と魚の旨味、たれの香ばしさを三つ葉の青い香りが引き締めます。品数の多いコースの最後にも、重く感じない締めでした。
水菓子は、なめらかなパンナコッタに白桃と西瓜を重ね、大原産の赤紫蘇を使った淡い桃色のゼリーを添えたもの。赤紫蘇の爽やかな酸味と香りが果実の甘みを引き立てます。マンゴーアイスのまろやかさを味わったあと、小さな器で出される緑茶の苦味が心地よく残りました。
明治の面影を残す庭
館の中心にある日本庭園は、南禅寺界隈に多くの別荘庭園が築かれた明治期の面影を伝えています。琵琶湖疏水の水を引き、敷地には四神相応の考えを取り入れ、飛び石、赤松、桜、楓を配しています。レストランから眺めるだけでなく、庭を歩くこともできます。一角に立つ「離れ 八重一重」は、矢鱈縞の障子とこけら葺きの屋根を備えた平屋の木造建築。バーとして飲み物をいただけるほか、華道、茶道、プライベートヨガにも使われています。
滞在を終えて
ふふ 京都では、水音や檜の香り、季節の料理、客室の温泉、明治期の面影を残す庭が、館内のどこにいても無理なくつながっていました。街の喧騒から距離を置きながら、京都を代表する寺院や文化施設へ歩いて行ける立地も大きな魅力です。静かに眠り、人目を気にせず湯に浸かり、朝は近隣の寺へ出かける。華やかな演出より、京都でゆっくり日常を整えたい人に似合う一軒です。
気に入った点:
- 全40室という落ち着いた規模と、すべての客室に温泉を備えたプライベート感。
- 格子、漆、木、和紙を生かし、建築から客室の細部まで調子を揃えた現代的な和の設え。
- 季節の小鉢が並ぶ朝食と、京野菜や炭火を軸にした夕食。どちらも品数が多く、満足感がありました。
惜しかった点:
- 寝室部分は分けられていますが、視線を完全に遮る不透明な間仕切りはなく、ほかの空間から完全に独立させることはできません。
基本情報
- ふふラグジュアリーコーナースイートは、2026年7月の滞在時、朝夕食付きで1,150ユーロ。