Skip to content

松坂屋本店に泊まる、箱根の時間

Florence Consul
Florence Consul ·

東京から約1時間半。箱根・芦之湯に、1662年創業の松坂屋本店があります。年月を重ねた建物、庭に面した客室、源泉かけ流しの湯。歴史をことさらに飾るのではなく、今の滞在へ自然につないでいる宿です。

360余年を刻む、箱根・芦之湯の宿

温泉と食、四季の景色に恵まれた箱根へは、東京から列車で約1時間半。松坂屋本店が建つ芦之湯までは、箱根の玄関口である箱根湯本駅からバスで約25分です。観光地の賑わいを離れた山あいに、庭の緑を縫うように歴史ある建物が点在しています。

松坂屋本店の創業は1662年。約13,000平方メートルの敷地に複数の館と21の客室があり、2022年に創業360周年を迎えました。歌川広重の浮世絵にも描かれ、皇室の方々のほか、明治期には木戸孝允や西郷隆盛らも訪れたと伝わります。建物や調度には、それぞれの時代の記憶が残されています。

@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten

明治の洋館を思わせるラウンジ

館内のラウンジスペースは、明治期の洋館を思わせる造りです。到着すると、当時をイメージした菓子と、好みの紅茶またはコーヒーが出されます。どこか昔の喫茶店を思わせる空気のなか、チェックインを済ませ、食事の時間と貸切風呂を予約しました。大きな窓から中庭を望むバーラウンジでは、無料の飲み物を片手にひと休みできます。囲炉裏の間には昔ながらの遊び道具や絵本が置かれ、思い思いにくつろげます。

@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten

庭を望む、21の客室

21の客室は趣の異なる5つの館に分かれ、うち10室に露天風呂が付いています。各館から望むのは、約6,630平方メートルの庭。春の芽吹き、夏の深緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、窓の外は季節ごとに表情を変えます。

@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten

私たちが泊まったのは、大正期の建物を移築した春風荘の「梢」。75平方メートルの和洋室で、畳の居間と寝室が独立しています。2月の滞在で何よりうれしかったのは、居間の中央に置かれたこたつでした。床の間の書や畳の部屋に配したツインベッドなど、昔ながらの意匠を残しつつ、使い勝手よく整えられています。庭を眺められる客室専用の檜の内湯も、「梢」を選ぶ理由のひとつです。

朝の「旅人朝食」

朝は、宿場町で旅人の一日を支えた食事を現代の食材で組み直した「旅人朝食」。蒸した和野菜や漬物、自家製納豆、山椒を利かせた牛肉の煮物、温泉卵が膳に並びます。生姜と葱を添えた湯豆腐、わさび漬けでいただく蒲鉾、とろろをかけた麦飯、地元の味噌を使った汁物もありました。焼き物は相模湾の地魚。最後は、松坂屋特製の蜂蜜ソースを添えた自家製ミルクゼリーです。品数は豊富ですが、野菜を軸にした朝らしい献立でした。

八節を取り入れた「宿場会席」

夕食は、お食事処 えんの「宿場会席」。立春、春分、立夏、夏至、立秋、秋分、立冬、冬至の八節を献立に取り入れ、土地の食材を使っています。席は掘りごたつの半個室や座敷。窓越しに季節の庭を眺められ、地元の日本酒やワインもそろいます。

@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten

私たちの「宿場会席」は、小さな料理を盛り合わせた先付から始まりました。鮟肝には青豆のペーストを合わせ、蟹と大根は砧巻きに。筍と若布の煮物、帆立と辛子菜の蕾の味噌酢和え、芹、赤蒟蒻、椎茸の胡麻和えと、春の素材を異なる食感と味つけで見せる一皿です。

続く煮物は、鰤、大根、ほうれん草を、味醂と醤油を合わせた甘辛い煮汁で炊いたもの。煮汁をよく含んだ大根に脂ののった鰤が合い、ほうれん草が味の合間を整えます。

お造りは、本鮪の赤身、平目、海老、湯葉。削り節が添えられ、醤油と柑橘の香るポン酢を使い分けていただきます。魚介の間に湯葉を挟むと、口当たりがやわらかく変わりました。

焼物は鰆の西京焼き。白味噌の甘みをまとった身はふっくらとしており、八朔、茗荷、春菊のほろ苦さが後口を軽くします。蟹餡も添えられた、香りの重なりを楽しむ一皿でした。

白魚と春野菜の天ぷらは、衣が薄く、歯触りも軽やか。抹茶塩を少しつけると、素材の甘みや青い香りがよく分かります。

肉料理は、神奈川県産足柄牛の陶板焼き。季節の野菜とともに熱い陶板で焼き、にんにくとアーモンドを利かせた醤油だれ、または岩塩でいただきます。肉はやわらかく、好みの焼き加減にできるのも陶板焼きのよさです。

ご飯ものは、浅蜊、きのこ、油揚げを炊き込んだ釜炊きご飯。浅蜊の旨みが米に染み、きのこの香りと油揚げのコクが続きます。味噌汁と歯切れのよい香の物も添えられ、長い会席を落ち着いて結ぶ一膳でした。

甘味は旬の果物、自家製プリン、チョコレートアイスクリーム。甘さを抑えたなめらかなプリンに、濃厚なアイスを合わせています。温かいお茶をいただき、夕食を終えました。

芦之湯の源泉に浸かる

江戸時代に箱根七湯のひとつに数えられた芦之湯温泉は、現在、国民保養温泉地に指定されています。松坂屋本店の自家源泉は、硫黄泉、硫酸塩泉、炭酸水素塩泉の三つの性質を併せ持つ、弱アルカリ性の高温泉。肌を整え、血行を促すとされる湯が、源泉かけ流しで注がれています。

@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten

改装された大浴場は木とガラスを基調とした明るい造りで、湯船から日本庭園を望めます。人目を気にせず入りたいなら、2019年に設けられた5つの貸切露天風呂へ。家族やカップルだけで湯に浸かれ、耳に届くのは周囲の森の音です。私たちも一日の終わりに貸切風呂を利用しました。観光を終えたあとの湯は心地よく、湯上がりにはほどよい疲れだけが残りました。

@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten
@Matsuzakaya Honten

総評

松坂屋本店では、1662年から続く歴史に触れながらも、古い宿にありがちな不便をほとんど感じませんでした。21室という規模にも余白があり、館内は落ち着いた雰囲気。古い建築や調度には、後から加えた装飾では出せない時間の厚みがあります。食事と温泉を含め、箱根で宿そのものを目的に泊まりたい人に向く一軒です。

よかった点:

  • スタッフの応対は手際がよく、親しみも感じられました。英語でのやり取りも非常にスムーズでした。
  • 客室は明るく、広さにもゆとりがあります。冬のこたつに加え、庭を望む客室専用の檜の内湯も楽しめました。
  • 森に囲まれた温泉。なかでも貸切露天風呂の環境が印象に残りました。

気になった点:

  • 私たちの客室は、シャワーが屋外にしかありませんでした。寒さが苦手な人には、冬場はやや使いにくいかもしれません。

基本情報

  • 2026年2月、夕・朝食付きで「梢」に宿泊。料金は600ユーロでした。

連絡先

Matsuzakaya Honten

Ashinoyu 57, Hakonemachi, Ashigarashimo-gun, Japan Google マップで開く
Matsuzakaya Honten
ホテル (2)