洛北・鷹峯のROKU KYOTOで過ごす
京都・洛北の鷹峯。庭園の傍らを天神川が流れ、山の緑を間近に望む地にROKU KYOTOは立つ。市街地の賑わいから離れた館内では、土地に根づく工芸と季節の自然、余白を生かした建築が穏やかにつながっている。眺めのよい客室、端正な料理、京都文化に触れる体験、山を望む屋外サーマルプール。ここでは足を止め、目の前の景色にゆっくりと向き合うことができた。
人波を離れて、鷹峯へ
ROKU KYOTO, LXR Hotels & Resortsが立つのは、京都駅から車で約30分。鷹峯の麓、天神川に沿って広がる約12ヘクタールの「しょうざんリゾート京都」の一角だ。1950年代に呉服商の一家が築いた敷地には、日本庭園やレストラン、茶室、着物の店舗、木陰の小径が点在する。本阿弥光悦が芸術家たちを集め、琳派の礎を築いた土地でもあり、自然と工芸を結びつけてきた歴史はホテルの随所に受け継がれている。
周辺を歩くと、楓や桜に縁取られたせせらぎ、手入れの行き届いた北山杉の庭、小さなギャラリーや工房、神社、ひっそりとした寺院が次々に現れる。東山や下京の人波とは対照的で、季節の移ろいを眺めながら歩く時間そのものが心地よい。金閣寺までは車で数分、市内中心部へもタクシーで無理なく出られる。京都を巡ったあと、山裾の静けさへ戻れる立地である。
工芸と自然を映す、現代のしつらえ
BLINK Design Groupが手がけた館内は、京都の寺院や伝統家屋に見られる要素を、現代の空間へ無理なく取り入れている。淡い木肌、床から天井まで届く窓、抑えた直線、勾配屋根、庭へ視線を導く回廊、季節の色を映す水盤。到着すると、まずティーハウスで土地のお茶をいただく。館内へ進む前から、目を引く装飾よりも、素材と光の扱いを大切にしていることが伝わってきた。
ホテル全体の着想源は、約400年前に本阿弥光悦がこの地に築いた芸術村にある。ロビーには漆、レストランには竹、スパには陶器というように、場所ごとに異なる工芸の要素が置かれている。客室や廊下を飾るのは、雲や波、草花、風など、自然の動きを写した京からかみの文様だ。レセプションでは、土を思わせる色の漆片を組み合わせた大作が抽象的な風景を描き、別の場所では風神雷神に着想を得た作品が琳派の図像を現代へ引き寄せる。ティーハウスのラウンジには、風に揺れる水面のようなパネルと、若い日本人作家による陶器の花器が並ぶ。染織や彫刻を含め、館内の作品は500点以上。歴史的な意匠を引用するだけでなく、今も続く工芸として空間に馴染ませている。
鷹峯を望むプレミアデラックスルーム
全114室の客室とスイートでは、大きな窓の向こうに広がる自然が主役になる。淡い木材とニュートラルカラーを基調に、京都の職人が手刷りした京からかみ、木格子、織りのヘッドボード、特注の茶器、西陣織に着想を得たファブリックを合わせている。1階の温泉ガーデンルームには専用の日本庭園と天然温泉を引いた石風呂があり、プールサイドテラスルームにはサーマルプールを望む広いテラスが備わる。日本の手仕事と現代的な設備が、過度な装飾に頼らず同居している。
私たちが滞在したのは、最上階にある50㎡のプレミアデラックスルーム。窓いっぱいに周囲の山と森が広がる。低く抑えた家具と淡い木の造作に、黒、濃紺、テラコッタを差した室内は、すっきりとしていながら冷たさを感じさせない。窓辺のデイベッドに腰掛けると、光とともに表情を変える緑が一枚の絵のように見えた。柔らかな照明、厚みのある寝具、陶器の茶器、クローゼットに揃えられた浴衣、パジャマ、バスローブも使い勝手がよい。浴室はアンスラサイト色の石と濃色の陶製ボウルでまとめられ、日本らしい深さの浴槽が据えられている。格子を通して差し込む光まで丁寧に考えられた、落ち着きのある一室だった。
TENJINで迎える朝
朝食はレストラン「TENJIN」でいただく。和食と洋食の定番が並ぶビュッフェに、好みに合わせて焼くオムレツなどの注文料理が加わる。フレッシュフルーツやジュース、ペストリーも十分に揃い、慌ただしさを感じずに朝の時間を過ごせた。
朝から夜まで、景色とともに過ごすTENJIN
レストラン「TENJIN」は、自然や工芸、現代美術を料理と空間の両方に取り入れたオールデイダイニングだ。入口で目に留まるのは、京都産の真竹を熱して曲げ、竹細工の技法で組み上げた竹又 中川竹材店の作品。その柔らかな曲線が、端正な家具、高い勾配天井、プールや森、鷹峯の山並みを望む大窓をひとつにつないでいる。店名はテラス沿いを流れる天神川に由来する。紅葉の頃には、モダンブラッスリーの開放的な空間から洛北の色づく景色を眺められる。
TENJINでは朝食から夕食まで、京都産や旬の食材を取り入れたモダンフレンチを味わえる。より落ち着いた「TENJIN」ザ バーには、京都の文化や素材から発想したカクテルが揃う。初日の夜に選んだのは、アメリカンクラブハウスサンドイッチと京都産和牛チーズバーガー。Suiten Ippekiは、バタフライピー、ミント、エルダーフラワー、ライムを合わせた涼やかな一杯だった。Mizuo Yuzu Gin & Tonicには、季の美 京都ドライジン、水尾柚子のマーマレード、ジャパニーズビターズ、柚子トニックを使用。柚子の香りがはっきりと立ち、京都の素材が素直に生かされていた。
緩急を利かせたSERENUSコース
SERENUSコースの最初は、「夏野菜のガーデン 鴨の生ハム サマートリュフ」。トマト、ズッキーニ、ベビーコーン、ビーツ、若葉を小さな庭のように盛りつけ、野菜のみずみずしさに鴨の生ハムの塩味を重ねている。傍らには、サマートリュフを削ったなめらかなクリーム。土を思わせる香りが、軽やかな野菜の味を引き締めていた。
続く「帆立貝柱のソテー こかぶ ロメインレタスのリゾット」は、淡く焼き色をつけた帆立の中心にみずみずしさを残している。クリーミーなロメインレタスのリゾットには、軽くキャラメリゼした京こかぶの甘みを合わせ、泡と若芽、ハーブオイルを控えめに添えていた。
魚料理は「縞鯵のミキュイ アスパラガス 雲丹」。縞鯵は皮を香ばしく焼き、身はしっとりと仕上げている。グリーンアスパラガスと雲丹を添え、白い皿には淡いクリーム、ピンク色の小さな角切り、ゼストを余白を取って配置。雲丹の濃厚さに紫色の若芽の青々しい風味が重なり、縞鯵の持ち味を損なわない組み立てだった。
肉料理は「京都産黒毛和牛『京の肉』ヒレ肉のグリル 実山椒ソース 丹波野菜」。格子状の焼き目をつけたヒレは、中にみずみずしいロゼ色を保ち、柔らかさがよく伝わる。琥珀色の実山椒ソースには穏やかな辛みと青い香りがあり、丁寧に火を入れたキャベツや艶のある根菜など、丹波野菜の甘みと土の風味がよく合っていた。
デザートは「メロンとアールグレイのパフェ」。グラスの上にはみずみずしい青肉メロンと淡い色のアイスクリーム、その下にはジュレ、軽いクリーム、果肉が層をなす。薄い飾りの軽やかな歯触りも心地よい。最後にプティフールが供され、食事を終えた。
鷹峯を望む屋外サーマルプール
THE ROKU SPAは、自然素材と京都の工芸を落ち着いた照明の中に配している。入口では大蔵山の伊達冠石と陶芸作品が迎え、石の肌と抑えた光が外からの気分を切り替えてくれる。深い緑と淡い木を基調としたトリートメントルームでは、「Kyoto Elements(キョウト エレメンツ)」をコンセプトにした施術を受けられる。代表的なメニューのひとつが、近くを流れる天神川で磨かれた石を温めて使うストーントリートメントだ。
なかでも印象に残ったのは、天然温泉を引いた屋外サーマルプールだ。庭園と鷹峯の山並みを望む温水プールは京都では珍しく、ミネラルを含むアルカリ性の湯が体をじんわりと温める。山の空気に触れながら湯に身を預けると、観光で歩き疲れた体も少しずつほぐれていった。プールの後はハーブティーやインフューズドウォーター、軽食を取り、サーマルフローティングやヨガ、景色を望むフィットネスへと続けることもできる。
茶、和紙、金継ぎから知る洛北の工芸
ROKU KYOTOのアクティビティは、洛北の歴史と工芸を具体的に知るきっかけになる。しょうざんリゾート京都の北庭では、大徳寺から移築された歴史ある茶室で、北山杉と楓に囲まれながら茶の湯に触れられる。天神川の水を使った紙漉きのほか、金継ぎや陶芸の体験も用意され、地元で活動する職人が手ほどきする。本阿弥光悦の芸術村の記憶をたどるように、竹、漆、からかみ、陶芸の作り手を訪ね、自分の手で一点ものを仕上げる体験も手配できる。詳しくは別記事のROKU KYOTOが提案する、本物の日本文化との出会いで紹介している。
滞在を振り返って
ROKU KYOTOでは、京都らしさを分かりやすい装飾で強調せず、工芸や建築、料理の細部から伝えている。その距離感が心地よかった。賑わう寺院や街を巡ったあと、鷹峯の景色の中で静けさを取り戻し、普段とは異なる速度で京都を見ることができる。ゆとりのある空間、季節の景色、今も続く手仕事に価値を感じる旅行者にとって、京都で有力な選択肢のひとつだろう。
気に入った点:
- 観光地の人波から離れた、確かな静けさ。土地の歴史を説明に頼りすぎず、空間や工芸を通して伝えている。
- 37℃に保たれた屋外サーマルプール。京都はもちろん、日本でもそう多くない設備で、周囲の景色も申し分ない。
- よく吟味された多彩なアクティビティを通して、観光だけでは見えにくい京都の文化や手仕事を深く知ることができる。
改善を期待したい点:
- 朝食のセイボリーは水準が高いだけに、スイーツやペストリーがもう少し充実すれば、全体の満足度もさらに高まりそうだ。
基本情報
- プレミアデラックスルーム:2026年6月の宿泊料金は1,050ユーロ。
連絡先
空室を確認ROKU KYOTO LXR HOTELS & RESORTS