大阪のムッシュ ディオールで味わう、アンヌ=ソフィー・ピックのフレンチ
大阪・心斎橋の中心に立つハウス オブ ディオール 心斎橋。ブティックでの買い物に加え、4階ではアンヌ=ソフィー・ピックのフランス料理を味わえます。日本の食材や香りを取り入れ、クチュールにも着想を得た料理とはどのようなものなのか。実際に訪ねてみました。
庭園を思わせるダイニング
御堂筋と長堀通の交差点にほど近いハウス オブ ディオール 心斎橋は、藤本壮介が手がけた波打つファサードが目印です。高級ブランドのブティックが並ぶ街でも、ひときわ目を引く建物。2026年5月21日にオープンし、4階にはムッシュ ディオール by アンヌ=ソフィー・ピックが入っています。レストランへは、大通りから離れた専用入口を通って向かいます。心斎橋のにぎわいを背に、落ち着いた気分で席に着けました。
内装を手がけたピーター・マリノが着想を得たのは、クリスチャン・ディオールの創作を支えた庭園です。ダイニングは淡い色調でまとめられ、花柄の椅子が並びます。鏡が照明の光を映し、壁一面を飾るのは、ディオールが愛した南仏の邸宅、ラ コル ノワール城の大きな写真。真っ白なクロスにディオールの食器を配したテーブルは端正で、親しみも感じられました。
館内を歩くと、アートにも目が留まります。ブティックの1階にはカリーヌ・ラヴァルのインスタレーション、レストランの個室にはホルヘ・ガリンドの絵画が飾られています。4階にはメインダイニングのほか、厨房を見渡せるシェフズテーブルを含む2つのプライベートスペース、バー、充実したワインセラーも。作品は花を思わせる意匠や器となじみ、食事をする空間に自然に溶け込んでいました。
アンヌ=ソフィー・ピックが探る香りの組み合わせ
アンヌ=ソフィー・ピックは、女性シェフとして世界で最も多くのミシュランの星を獲得しています。フランスのヴァランスで家族から受け継いだレストランは、2007年から三つ星を維持。料理の軸にあるのが、香り、味、食感の重なりを探る「サフュージョン(浸透)」という考え方です。研究開発拠点のピック ラボでは、植物を中心に、チームとともにさまざまな組み合わせを試しています。代表作のベルランゴやミルフィーユ ブランにも、その成果がうかがえます。21歳で初めて訪れた日本は彼女の感性に大きな影響を与え、今も食材の取り合わせを考えるうえで欠かせない存在です。
かつてはファッションの仕事を夢見ていたというピック。大阪でディオールと組むにあたり、アーカイブやコレクションをひもとき、カナージュの線やオーバルの丸み、蜂やレオパードのモチーフを、料理の形や盛り付けに取り入れました。ラ トワール ブランシュ、La Ruche、Le Jardin Fleuriもそうした料理です。フランス料理の技法を土台に、たまり醤油、だし、米酢、そば茶を使い、日本を初めて旅した頃の記憶を重ねています。
4品のランチコースをいただく
私たちが選んだのは4品のランチコースです。最初のアミューズには、香ばしく焼き色のついたピスタチオのタルトレット。砕いたピスタチオが散らされ、さくりとした生地となめらかな中身の違いを一口で楽しめます。イカのタコスは小舟のような形をしていて、色とりどりの花が添えられていました。続くパンは、蜜蝋を使ったものと、ターメリック入りのミルクパン。後者にはクリスチャン・ディオールが好んだレオパード柄があしらわれています。北海道産バターには味噌と挽いたコーヒー豆が加えられ、パンと合わせたときの風味が印象に残りました。飲み物には、ノンアルコールワインのアインス ツヴァイ ゼロ スパークリング リースリングを合わせています。
夫の前菜は、ルフ クリスチャン・ディオール。ハーブのマヨネーズを敷き、青海苔のパリッとした衣で包んだ半熟卵に、オシェトラキャビアとフレッシュハーブを添えています。卵は、ジョナサン・アンダーソンがディオールでの初めてのショーの招待状にも用いた、時代を超えて親しまれるモチーフ。ここでは、その形を生かした一皿になっています。ペアリングは、ロイヤルブルーティーのキング オブ グリーン コウイチロウ インペリアルでした。
私はラ トワール ブランシュを選びました。白い皿の中央に置かれた北海道産ホタテを、薄いアーモンドのヴェールが覆います。サテンのような艶としなやかなひだは、布のドレープのよう。柑橘を利かせた酒米のクリームに、柚子、ほうじ茶、ローズゼラニウムが香り、白一色の見た目から想像する以上に豊かな風味が広がります。傍らには、ハーブと種を散らしたクリーミーな付け合わせもあり、ホタテの穏やかな旨みとの対比を楽しめました。日本酒のIRIKAを合わせると、なめらかな口当たりがいっそう際立ちます。
続くレ ベルランゴ レオパードは、ピックの代表作を大阪限定の仕立てにしたものです。さまざまな味で作られる三角形のラビオリに、ここではレオパード柄をあしらっています。食べる直前に注がれる緑色のエマルションは、わさびと多年草のワイルドセロリを使ったもの。鮮烈な香りとともに、生地に包まれたジュラ産の24か月熟成コンテAOPが、とろりと口の中でほどけます。ヘーゼルナッツやドライフルーツ、キャラメルを思わせる風味のなかに、熟成による結晶の粒感もあり、枝豆の青い甘みがよく合います。玉露は、まず15℃で口を整え、次は80℃で料理とともにいただきました。温度によって変わる茶の旨みが、コンテの余韻によく合いました。
夫がメインに選んだラ プロットは、フランス料理を基調にアジアの香りを取り入れた鹿肉料理。フレッシュミントと紫蘇でマリネした肉には、すっきりとした香りが感じられます。添えられたジャガイモは表面がパリッとしていて、中にはタイのグリーンカレーが詰まっていました。皿の底に細かなミントのパウダーを散らし、仕上げに席で、じっくり煮詰めた鹿肉のジュを注ぎます。肉の凝縮した味わいとハーブの清涼感を、ロイヤルブルーティーの玉露焙じ茶 KAHO香焙とともに楽しみました。
私のメインはレ ペタルです。酒粕で2日間マリネした鶏肉はやわらかく、穏やかな香りが染み込んでいました。花びらのように並べた薄切りのマッシュルームの下には、野生のキノコ、タケノコ、紫蘇を詰めたラビオリが隠れています。セロリと洋梨のなめらかなピュレに、さらに野生のキノコを添えた一皿で、甘みのなかに土を思わせる深い風味が感じられました。席で注がれるのは、ジュラのヴァン・ジョーヌを使った、ナッツやスパイスの香りを思わせるソース。飲み物には、Blancのお茶、クイーン オブ ブルーを合わせています。
夫のデザートは、ル ミルフィーユ ブラン ピエドプール。表面の千鳥格子は、香水ミス ディオールの原点を思わせる意匠です。7層の間にジャスミンのジュレとほのかな黒胡椒の風味を忍ばせ、バニラのカスタードクリームで包んでいます。堂々とした姿ながら口当たりは軽く、切り分けるとバニラとジャスミンがふわりと香りました。酸味のあるジャスミンのカクテルが、甘さをほどよく引き締めていました。
私はル パピヨンをいただきました。蝶の形をした軽いイル フロッタントが、オレンジの花とジャスミンを香らせたカスタードに浮かんでいます。なめらかなクリームにアプリコットのコンフィを合わせ、さらに、さまざまに仕立てたアプリコットとパイナップル、バナナを添えた一皿。食用花も飾られています。飲み物は梅シロップにスパークリングワインを合わせたもので、デザートとよく合いました。
最後は、トレイに並んだ3種類のミニャルディーズです。バラが香るタルト、鮮やかな食用花を散らした柚子のメレンゲ、蜂の形のチョコレート。花の香り、柑橘の酸味、チョコレートのほろ苦さと、一口ごとに違う味わいを楽しんで食事を終えました。
食事を終えて
クチュールに着想を得た料理は、形に加えて、味や食感も細かく考えられていました。ディオールのモチーフをたどりながら、ピックの料理をじっくり味わえたランチです。
連絡先
Monsieur Dior by Anne-Sophie Pic