コンラッド大阪「蔵」の鉄板焼、火入れの技を間近で
コンラッド大阪の最上階にある「蔵(鉄板焼&寿司)」。大阪の街を望む鉄板カウンターに座ると、火を入れる一瞬の判断や無駄のない手さばきまで、料理の一部として見えてきます。食材の香りが立つ距離で、その技と味を追いました。
地上約200メートルから大阪を望むホテル
地上約200メートルに位置するコンラッド大阪では、床から天井まで届く窓の先に、川と市街地、さらに海や山々まで見渡せます。全164室の客室にはゆとりがあり、現代的な設えに日本の工芸を思わせる抽象的な意匠を取り入れています。館内には趣の異なるレストランとバーのほか、コンラッド・スパ、プール、フィットネスセンター、宴会・会議スペースを併設。自然を着想源とした約400点のアートが随所に置かれ、文化施設が集まる中之島という立地にもよくなじんでいます。
鉄板焼と江戸前寿司、それぞれのカウンター
40階の「蔵(鉄板焼&寿司)」には、鉄板焼と寿司、それぞれのカウンターがあります。鉄板の前では、料理人が神戸牛や近江牛、旬の野菜から米料理まで、目の前で仕上げていきます。火入れの精度はもちろん、盛り付けまで途切れなく続く手元の確かさがよく分かります。
かつて蔵や交易の場が集まった中之島の歴史を踏まえ、内装には漆を多用。間仕切りが広い店内をゆるやかに分けています。鉄板を囲む革張りの椅子はゆったりとしており、開放的でありながら落ち着いて食事ができます。大きな窓の眺めは、昼の街並みから赤く染まる夕空、ビルの灯が連なる夜景へ。ランチとディナーの献立も季節ごとに替わります。
寿司カウンターは席数を抑え、よりプライベート感のある空間です。檜のカウンター越しに、関西近海の魚を使った江戸前寿司が供されます。刺身や握り、季節の一品が順に運ばれ、味噌汁、甘味へと続きます。高い天井を備えた鉄板焼の個室もあり、会食や記念日など、周囲を気にせず食事をしたい場面に向いています。カウンターで使われる道具も職人の手製で、唐津焼から着想を得た意匠に「蔵」らしさが表れています。
和牛をさまざまな仕立てで味わう「天津星」
この夜に選んだのは、和牛と旬の食材を軸にしたディナーコース「天津星(AMATSUBOSHI)」。最初の一杯には、ルイナール ブラン・ド・ブランを合わせました。きめ細かな泡と張りのある酸が口を整え、続く肉料理へ軽やかにつないでくれます。
最初の一皿は、直火で表面を炙ったサーロインの肉寿司。中心には淡い桃色が残り、脂の甘みの後から香ばしさが立ちます。北海道産雲丹の濃い旨みとキャビアクリスタルの塩気を重ねても、牛肉の持ち味は埋もれません。それでも最後に残るのは、サーロインの甘みでした。
続くのは、大阪の國乃長ビールで時間をかけて火を入れた黒毛和牛の煮込み。スプーンを入れるだけでほどける肉から、麦芽を思わせる香ばしさと穏やかな甘みが広がります。削りたてのトリュフは土を思わせる香り。京丹後産こしひかりの薄いチップが、やわらかな一皿に小気味よい歯触りを添えます。
薄切りの黒毛和牛ブレザオラは、細かな霜降りと深いばら色が目を引きます。しっとりした舌ざわりと自然な甘みに、やわらかく蜜煮にした和歌山県産あんぽ柿の果実味を合わせています。小豆島産オリーブオイルの丸みがなじみ、あと口にはほのかな青い香りが残ります。
松阪牛サーロインのしゃぶしゃぶは、澄んだだしとともに供されます。ごく薄く引いた肉をさっとくぐらせると、淡い桃色を残したまま脂がほどけます。芹の青さに松茸の香りが重なり、牛肉の豊かな味わいを重く感じさせません。
ザクロのソルベで口を休めた後は、特選黒毛和牛フィレの鉄板焼へ。厚みのある肉は表面を香ばしく焼き上げ、中心には十分な肉汁を保っています。旬の焼き野菜を添え、山葵、酢橘、青森県産にんにくの薄いチップを好みで合わせると、一切れごとに味の輪郭が変わります。
食事の締めは、鉄板に小鍋を置いて仕上げる黒毛和牛のすき焼き。薄切り肉に醤油を利かせた甘辛い割り下がなじみ、つやのある白飯によく合います。香の物の歯触りとほのかな酸味を間に挟むと、最後まで箸が進みました。
甘味には、食べ頃を見極めた旬の果物が、飾りすぎない盛り付けで登場しました。私たちは甘酒を合わせました。米由来のやわらかな甘みとほのかな発酵香が果実の瑞々しさを損なわず、食後に重さを残しません。
火入れの違いまで見えるカウンター
この夜に印象に残ったのは、同じ和牛でも肉寿司、煮込み、ブレザオラ、しゃぶしゃぶ、鉄板焼、すき焼きと調理法を変えることで、味わいがはっきり異なっていたことです。料理人の手元が見えるカウンターでは、肉が焼き上がるまでをつぶさに追えます。窓外に夜景を置きながら、意識は自然と鉄板へ向かいました。伝統の技を間近に見られながら、店の空気は堅苦しすぎません。大阪で覚えておきたい一軒です。