ルレ・エ・シャトー加盟、修善寺「あさば」で過ごした一夜
東京での暮らしも3か月を過ぎ、そろそろ自然が恋しくなってきました。荷物をまとめ、都心から約2時間の修善寺へ。一夜を過ごしたのは、520年以上にわたって客を迎えてきたルレ・エ・シャトー加盟の「あさば」です。日本の旅館文化を今に伝える、この名宿での滞在をご紹介します。
東京から約2時間、修善寺温泉へ
伊豆半島の内陸にある修善寺は、東京から約2時間で訪ねられる温泉地です。海の印象が強い伊豆にあって、この一帯には山あいの穏やかな風景が広がります。訪れた1月初旬、温泉街を歩く人の姿はまばらでした。寺院や竹林の小径、自然に湧く温泉を巡りながら、静かな町をゆっくり歩きました。
水音と緑が近い館内
「あさば」の始まりは1484年。館内には、長い年月のなかで受け継がれてきた日本建築と暮らしの美意識が息づいています。聞こえてくるのは水の流れと鳥の声。目の前には緑が広がり、日常の雑音が遠のいていきます。春は桜、秋は橙から紅へと色づく楓が見頃です。季節の変化が滞在中の眺めにそのまま表れることも、この宿ならではの魅力でしょう。
池に浮かぶ能舞台「月桂殿」
到着してまず目を奪われたのは、大きな窓の向こうに広がる池と木々でした。水上に張り出す木造の能舞台「月桂殿」では、年に数回、公演が催されます。舞台に面した客室ならバルコニーから、そのほかの客室でも池沿いの共用テラスから鑑賞できます。水面越しに舞台を望むテラスは、「あさば」を象徴する場所のひとつ。朝夕で移り変わる光と景色を、好きな時間に眺められます。
共用部には、現代的な意匠もさりげなく取り入れられています。サロンでは景色を眺めながら、お茶やカクテルを楽しみました。館内には施術を受けられる「ヒーリング&セラピー -ひととき-」もあります。
玄関で靴を預け、客室へ
玄関に入ると、スタッフがそろって一礼し、迎えてくれました。日本を訪れ始めた頃なら戸惑ったかもしれませんが、旅館での滞在にも慣れた今では、ごく自然に受け止められます。靴は玄関で預け、次に外へ出るまで履きません。東京を離れると英語が通じにくい場面もありますが、担当スタッフの英語は実に流暢でした。17ある客室の一室へ案内されると、和菓子と煎茶が用意されていました。
華美に走らない客室
「あさば」の客室に感じられるのは、装飾の華やかさではなく、素材と仕立ての確かさです。日本で数か月を過ごし、30軒ほどの旅館に泊まってきたからこそ、畳ひとつ取っても質の違いが分かりました。家具は必要なものだけに絞られ、浴室には木の浴槽があります。花や壁の書が、余白を残した室内にさりげなく置かれていました。窓の外には豊かな緑が広がります。
季節の会席を客室で味わう
夕食は旅館の慣習に倣い、客室でいただきました。旬の素材を少量ずつ仕立てた会席で、刺身など馴染みのある品に交じり、私たちには珍しい味も並びます。翌朝の朝食も同じく客室で。周囲を気にせず、二人でゆっくり食卓を囲めるのは、部屋食ならではの良さです。
修善寺の湯と野天風呂
午後は、この宿を選んだ大きな理由でもある温泉へ。浴衣に着替え、そのままチェックアウトまで過ごしました。館内には男女別の内湯と2つの貸切風呂があり、私たちは二人で入れる貸切風呂へ。なかでも忘れがたいのは、周囲の自然に溶け込む野天風呂です。湯に身を沈めると、風や木々の気配がすぐそばまで迫ってきました。
夕食を終えて客室に戻ると、留守の間に布団が敷かれていました。旅館でこれまで寝た布団のなかでも格別に心地よく、こうした目立たないところに宿の質が表れているように思います。
総評
日本文化に関心がある人はもちろん、昔ながらの旅館で一夜を過ごしてみたい人にとって、「あさば」は検討に値する一軒です。伝統的な作法のなかで、客室での食事、修善寺の湯、心地よい寝具まで、一晩の流れが隅々まで整えられていました。日本の旅館文化に触れるという点では、ルレ・エ・シャトーの加盟宿のなかでも際立つ存在です。
- 滝と池、能舞台「月桂殿」がひとつの風景をつくる眺め
- 畳や客室の設え、寝心地のよい布団から伝わる確かな質
- 温泉だけを目的に訪れたくなるほど印象深い野天風呂
気になった点
- 料理の完成度は高い一方、献立全体にはさほど意外性を感じませんでした。