The Shinmonzen 京都|祇園に泊まり、アートと建築に触れる
歴史ある祇園、新門前通りに立つThe Shinmonzenは、町家を思わせる外観の内側に、安藤忠雄の建築とオーナーが選んだ現代美術を収めた、全9室のホテルです。料理を手がけるのはジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリステン。応対は細やかでありながら先回りしすぎず、京都の文化に触れる機会も無理なく滞在に組み込まれています。現代の旅館を思わせる親密さがありました。
祇園の日常に溶け込む立地
The Shinmonzenが立つのは、祇園の新門前通り。美術商や骨董店が軒を連ね、「芸術家の通り」とも呼ばれる落ち着いた一角です。茶屋や石畳の路地、寺社が点在する祇園の中心部へ歩いて行ける一方、観光客の多い通りからは程よく離れています。
建物は白川に面し、窓の外には季節ごとに表情を変える景色が広がります。濃色の木、緩やかに反る瓦屋根、白い「S」を染め抜いた暖簾。町家の意匠を踏まえたファサードは主張を抑え、周囲の街並みにすっとなじんでいます。
町家の面影を残す安藤建築
新築の建物でありながら、外観は祇園の歴史的な景観を乱しません。一歩中へ入ると、安藤忠雄らしい打放しコンクリートと明るい木が現れ、町家の面影を残す外側とは異なる、現代的な空間へと切り替わります。新旧をことさらに対比させず、一つの建築としてつないでいるのが見事です。
インテリアは、安藤と協働したレミ・テシエが担当。直線を基調とする室内には穏やかな光が入り、旅館らしい親密さと、現代のホテルに必要な快適性が無理なく同居しています。2021年12月に開業した小規模ホテルで、建築、美術、もてなしの距離が近いことも特徴です。
館内には、ルイーズ・ブルジョワ、ゲルハルト・リヒター、ダミアン・ハースト、杉本博司らの近現代美術が随所に飾られています。コレクションの背景にあるのは、日本文化に深い関心を寄せるオーナー、パディ・マッキレンの審美眼です。南仏で彼が手がける、芸術と建築を軸にしたホテルVilla La Coste(ヴィラ・ラ・コスト)にも通じるものがあります。数年前に滞在した際の記事はこちらです:Villa La Costeで出会うアート、美食、ホテルステイ。
素材の違いを楽しむ9室のスイート
9室のスイートはそれぞれ造りが異なり、TAKE(竹)やISHI(石)など、日本の素材にちなんだ名が付けられています。障子や畳、抑制の利いた家具を取り入れつつ、室内には十分な広さと明るさがあります。伝統的な意匠が、現代の客室に自然になじんでいました。
自然な木目を残したシカモア材のヘッドボード、家具職人Paul Longpréによる無垢材のテーブル、渡辺隆之の一点物の陶器など、細部には作り手の仕事が表れています。アニー・モリス、メアリー・マッカートニー、リチャード・ゴーマンらの作品も置かれ、竹、絹、大理石、漆といった素材が各室に異なる表情を与えています。
バスルームには、客室ごとに淡いピンク、グリーン、ベージュの大理石が使われています。ヒノキ風呂に湯を張れば、立ち上る木の香りも心地よいもの。京都の職人が仕立てた、竹の意匠を生かした弁当箱など、備品からも土地とのつながりが伝わります。
ベッドは洋式のほか、3室で低い布団型を選べます。私たちが滞在したのは、旅館を思わせるISHIスイート。寝室一面に畳が敷かれ、京都の老舗寝具メーカー、イワタの布団型ツインベッドが置かれています。室内へ入ってすぐ、その落ち着いた佇まいに心をつかまれました。
居間には身体を包み込むような曲線の椅子が置かれ、その先に白川を望む専用バルコニーがあります。水面を眺めていると、祇園の中心にいることを忘れるほど。客室にいながら、川の流れや季節の気配を身近に感じられます。
京都散策へ出る前の朝食
朝食の場所は、レストラン、リバーサイドテラス、客室から選べます。冷え込む12月の滞在だったため、私たちはアートに囲まれた暖かなレストランへ。和朝食、アメリカン、コンチネンタルのほか、アーモンドパンケーキや卵料理も揃います。コンチネンタルは品数を絞った内容ですが、一品ずつの質が高く、街歩きへ出る前の朝にちょうどよいものでした。
ジャン-ジョルジュが組み立てる京都の味
Jean-Georges at The Shinmonzenを手がけるのは、初めて京都を訪れてから約20年、この土地に魅了されてきたジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリステン。フレンチを軸にアメリカやアジアの要素を交え、地元の食材を季節に応じて組み立てます。飾り立てるよりも、素材と香味の重なりを生かした料理です。席数を抑えた店内では、落ち着いて食事に向き合えます。
The Shinmonzen Barはわずか6席。Stephanie Gotoが設計した店内には、左官仕上げを思わせる質感のある壁が広がり、日本の職人仕事を感じさせます。季節の草木や風景から着想したカクテル、和の要素を取り入れたクラシックカクテルのほか、選び抜かれたワインも用意。バーテンダーと話しながら一杯を決められる距離の近さも、この小さなバーならではです。
白川沿いのリバーサイドテラスでは、川音や風を感じながら食事ができます。午後にはパティスリーチームのアフタヌーンティーが並び、ランチとディナーではジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリステンのメニューを味わえます。料理とともに、移ろう光や水辺の景色にも目を向けたい場所です。
小規模ホテルに見合ったウェルネス設備
館内にはカーディオ機器を備えたジムがあり、客室用のワークアウト用品も用意されています。トリートメントは専用ルームに加え、スイート内でも受けられます。メニューには京都発祥とされるレイキもあり、外へ出ず客室で身体を休めたい日にも便利です。
案内役と歩き、京都をもう一歩深く知る
宿泊には祇園のプライベートガイドツアーが含まれ、街を歩きながら歴史や花街の文化を知ることができます。このほか、坐禅やマインドフルネス、ふだん一般には公開されていない茶席での茶道体験も手配できます。人力車で界隈を巡ることも、限られた客を迎えるお茶屋で芸妓や舞妓と過ごすことも可能です。通常の観光だけでは触れにくい京都へ入る糸口が揃っています。
こうした体験を支えるスタッフは親しみやすく、応対はきちんとしています。祇園の内外に築いたつながりを生かし、希望に応じて行程を細かく調整。9室という規模だからこそ、日々の会話から好みや予定を把握し、必要なときに自然な形で提案してくれます。
OGATAで出会う、日本茶と工芸
OGATA at The Shinmonzenは、日本茶、菓子、器、香りを扱うブティックです。2024年夏に開業し、伝統的な技術を今の暮らしに取り入れた品々を紹介しています。石の表情を残した諫早石のカウンターでは、茶を淹れて味わいながら、店の人と言葉を交わせます。日本の工芸を取り上げる企画展も開かれ、時期によって異なる作り手や作品に出会えます。
滞在を終えて
The Shinmonzenでは、祇園という立地、安藤忠雄の建築、美術や工芸が互いに競うことなく、一つの滞在に収まっています。素材の選び方や光の取り込み方からは京都への敬意が感じられ、使い勝手は現代的です。スタッフとの距離感も心地よく、街の文化を深く知るための手配にも慣れています。何より期待を上回ったのは、豪華さを前面に押し出さず、京都で過ごす時間にさりげなく手を添えてくれたことでした。
気に入った点:
- 祇園の中心部にあり、京都を歩いて巡りやすい立地。
- 全9室だからこそ可能な、目の行き届いた柔軟なサービス。
- 共用部にも客室にも、間近で鑑賞できる美術作品があること。
気になった点:
- 特にありませんでした。ただし、わずか9室のホテルなので、大規模ホテルのように施設が豊富なわけではありません。この小ささとプライベート感こそ、The Shinmonzenを選ぶ理由でもあります。
基本情報
- ISHIスイート:1,800ユーロ(2024年12月)
連絡先
空室を確認The Shinmonzen